少しでも傍に在りたいと



空は青。入道雲が映える夏。
そんな中、諸泉はと言えば、自分のものではない洗濯物を片付けていた。

「組頭ァ!洗濯物は溜めないで下さいとあれほど言っていたでしょう!」
「あれー、そうだっけ」
「しらばっくれないで下さい!」

どっさりと籠につまれた洗濯物を見下ろしながら、諸泉は溜め息をついたのだった。

「もう、こんな上司嫌だ……」





少しでも傍に在りたいと






パン、と小気味良い音をたてて、諸泉は洗濯物を伸ばすと、木と木の間に吊られた縄に干す。軽く横に伸ばして次に手を着けた。
朝方とはいえ、夏である。暑い。
さっきから止まることを知らない汗を装束の袖で拭っているが、むしろ洗濯物が増えるだけだろうと思う。

「と、言うか、なんで装束で洗濯物してるんだろ」

それよりもまず、今日は非番だった。
上司の雑渡直々に用事があるからと部屋に呼び出され、仕事かと思ったら「洗濯物を片付けて」である。人知れずぶん殴ろうかと思ったがなんとか自制心が勝ってくれた(殴れるなんて思っていないが)。

それで今に至る、のだが。

それにしても、何故自分なのか、と、洗濯物を干しながら諸泉は思う。
確かにまだ下っ端だし、難しい任務なんかこなせる自信もないけれど。掃除洗濯その他諸々、こうまで雑渡の身の回りの雑用ばかり押し付けられるのは如何なものか。

「……嫌、じゃ、ないんだけどなあ……」
「何が?」
「うわぁあ!」

突拍子もない登場に驚く諸泉に、雑渡は抑えた笑いをクスクスと漏らした。

「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「だ、だって組頭がいきなり背後に立ってるから!」
「それくらい気付かないと忍者としてどうかと思うよ」

気配を完全に消してたくせに、と諸泉は呟く。それを聞こえなかった風に、雑渡はそうそう、と続けた。

「で、何が嫌じゃないの?」
「え?えと、その……」

口ごもる。
まさか、こんなことを言えるはずもない。

「い、言わないといけませんか?」
「んー、まあ、いいけどね。私はね」

そう言いながら、雑渡はこちらに手を伸ばす。触れる直前に思わず肩を揺らしたが、雑渡は構わず手をすすめた。触れた場所は、こめかみの辺り。


「君を少しでも傍に置いておきたいと思ってるよ。……雑用を命じてでもね」


そう言って雑渡の指が諸泉の頬を撫でた。
そうしてすぐに指を離すと、雑渡はニコリと目許で笑う。

「ご苦労様」

そう言い残して去る雑渡の背中を見送ると、諸泉は思わずしゃがみ込んだ。



傍に居られることは嫌じゃないなんて、まだ暫く言えそうにない。



end


前サイトの5000hitフリーだったもの。
主要CPでどれが好きかとアンケートをとったところ、白凄と同率一位でした。うーん、鉄板。

ちなみに、結果発表から2ヶ月後にできあがったごめんなさいな話でもある……



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