精神的クライシス



「骨がね、好きなんです」

膝に乗っている頭蓋骨を磨きながら、彼はそんなことを言った。

「綺麗だし。触り心地もとてもいい。ねえ、きっと私、」

ヒトよりも、骨の方が好きです。
そう言う彼の方を見ると、とてもにこにことしていて幸せそうだった。伏せた瞳が、愛おしむように頭蓋骨見つめている。

「君は、死体愛好の気でもあるのかい」
「いいえ、私が好きなのは骨で、死体ではありません」

きっぱりと言われてしまった。
私からしたら、骨なんてみな同じように見えるのに。

「そんなことありません」

少しだけ憤慨したように彼が言う。

「骨は一人一人まったく違う形をしていますよ。これこそ千差万別です。形のいい骨は、外から見てもとても美しいものです」

例えば、ほら、

「長次の、あ、ろ組のあの背の高い彼なんですけど、彼の腕の骨は、とても形がいいですね。筋肉の付き方もキレイだし」

ほうほう、と私は相槌を打って聞く。
話ばかりは、とても面白いものだと思う。

「よく観察しているんだね」
「いいえ」

実際、見ているんです。
そう、彼の唇が動いた。

「こう、寝ている間なんかに、骨を取り出して。眺めているんです。いろんな角度から」

そう言いながら、彼は空中から何かを取り出す仕草をする。どうも、うまい言葉が見当たらないようだ。

「言ったでしょう。私はヒトより骨の方が好きだって。だから、骨を見れば、ヒトがもっと好きになれる気がして」

彼は、膝の上の頭蓋骨をつるりと撫でた。

「ああ、でも、前にたくさんのヒトの骨を一度に取り出してしまったから、もしかしたら間違えてしまったかもしれない」

彼は申し訳なさそうに、眉をハの字にしてこちらを伺った。





















「ねえ、あなたの骨は、本当にあなたのモノですか?」




















精神的クライシス














end




マジカルいさっくん

友人に見せたら「電波じゃん…」と言われました(´・ω・`)



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