狐籠の森と空(姫)


“ ”、“ ”





今日もまた、僕の耳に届いた音。軽やかに蹄が地を蹴り、僕のねぐらに近づいたと思えば遠ざかる最近始まった早朝の出来事。


その正体をまだ見たことは無い。何故なら、どんなに急いで外に出てみても影すら捕まえさせないからだ。ただ、分かるのは蹄を持った草食動物だということ。
そして毎日置き土産として、小さな花束が手元に残るだけだった…




「どう思う?真太郎」
「悪戯の類では無いと思うがな…お前に寄っていくなぞ酔狂としか思えんのだよ」
「…まあ、そうだね」



真太郎の言う通りだ。僕はこの森の主。目の前に居る真太郎を含めた五匹の群れのリーダーでもあるため滅多なことでは他の奴らは近寄ってこない。


頭に生えるは尖った耳に夜目の利く目に鋭い爪、そしてふさふさの尻尾…僕達は狼なのだ。

弱肉強食の世界。そこで生きる為には常に強者でなければならない。気を抜けば何時自分が狩られるかわからないのだから、些細なことに割く時間は無かった。
でも、毎日訪れる無言の訪問者に、興味を抱くようになり楽しみになるのは割と早い段階で、今ではその正体を知りたいと思う反面このまま不変でありたいと、耳を澄ます日々。



しかし、時に自然とは残酷で楽しみを諦めるしか出来ない天候の時もあり、自分でも分かるくらい機嫌が良く無かった。
暗鬱な思いで不貞腐れて居たときだ。



「なんかさ、赤ちん恋してるみたいだよねー」
「…何言ってる?」
「だってさ〜」





紫原の声が耳奥で反響している。



『だってさ〜来るの楽しみにして、無理な日は機嫌悪くて、貰った花大事に世話してる姿は、どうみても恋って言うんじゃないの?』



好きになっていた?見ず知らずのやつに?




カツンッ!



ぐるぐる考えていたら、届いたのは馴染みの音。



カツン、



鼓動が跳ね、一歩、一歩近付いてくる気配に息を潜める。



…カツン、



去ろうとした瞬間、僕はねぐらを飛び出し“獲物”を捕らえた。難無く地面に引き倒し、僕の腕の中に収まった小柄なソレは細かく体を震わせている。

見下ろせば、アルビノなのか淡い色を持った鹿だった。



「…君がいつも、ここに来ているの?」
「…はい、め、迷惑なら止めます」
「そうだね、迷惑だよ……だから、ずっとここに居てよ、離れるな…許さない」
「…え?」


「僕に、」








「おはよう、テツヤ」
「おはようございます、赤司君…良い夢でも見たんですか?」



昨日から、今日一日休みだからと泊まりにきたのだ。雀の鳴き声に目を覚ませば柔らかくは無いけど愛おしい体を腕に抱いて眠りについた幸せはそのままに、優しい声が耳をくすぐる。



「そうだね…良い夢かもしれない」



だって種族を越えても求めてる幸せは一つだけ。



つまり僕に、恋を芽吹かすのはテツヤしかいないって事なのだ。



end


パラレル×人外に見せかけ、実は夢でした。
少し補足。

テツヤ君は水色っぽい白鹿。
最近赤司君が主の森にやってきて、他の動物達から認めてもらうには貢ぎ物をするのが一番早いと聞き、一番美味しくて綺麗な花をこっそり持って行ってた。
今後はキセキ達に愛でられつつ赤司君の過剰な愛情に振り回される日々…


の予定でした





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