甘く触れて、それは悪戯のように

*『空模様』様から頂いてきたフリー作品です。







※大学生あたり



「…え?」
「だからね、ハロウィンパーティーをしようか」


突拍子もない発言だな、と思うより珍しさが先立った。
あまり、こういうイベント事をあまり祝わない性質かと思っていたからだった。中学のとき三年間同じ部活で割と近くに居たけれど多少誕生日を祝うくらいで、他はやった事が無い。

高校に入ってからは別々なので知らないけれど、彼は関西圏に行ったからその影響があるのかもしれないと思うことにする。


「また、急ですね…具体的に何をするんですか?」
「そうだな…セオリー通りに仮装と南瓜を使った料理の用意かな、皆を呼んで楽しもうじゃないか」
「…わかりました、というか君の中で決定事項なら何言っても意味ないので僕は従いますよ」

「鈍いなぁ…」
「はい?何かいいましたか?」
「別に?衣装や料理は僕が用意するから皆へ連絡よろしく」


これが朝の出来事。そこからはみんなに赤司君と話した事を伝えて、詳しいことは随時連絡していった。
そして、呼ばれた全員が赤司君の家に入り案内された部屋に通され固まった。


『え?コレ?コレ着んの?』


各自名前の書かれた不織布製の袋を開けると赤司君が用意したであろう仮装があふれた。


とりあえず着るしかない状況に涙を見せつつ袖を通し始めつつがなく終わらせる。その際に軽く涙が零れたことは秘密である。



「…おや、案外似合ってるな」
「ふざけんな!赤司!」
「そうっスよ!」
「俺はおいしーもの食べれば何でもいーしー」
「赤司に何言っても意味ないのだよ」
「そーだよ!きーちゃん!」
「なにこのハブられ感!!」



当然というか騒いだ。半分苦情であるのは仕方がないだろう。なんせ、用意された衣装の所為なのは明白だった。



「(黄瀬君は魔女で、青峰君は悪魔、緑間君はたれ耳うさぎ、紫原君は猫又、赤司君は妖狐で、桃井さんは吸血鬼、僕は幽霊ですか…)面白いチョイスですね」
「だろう?しかしさつきとテツヤはまだしも涼太の服見つけるの苦労したんだよ…まぁ、いい、料理が冷める前に食べようじゃないか」



その合図と共に文句を言っても無駄だと思ったのか、口を噤んだ黄瀬君達も渋々手を付けはじめた。
赤司君が用意したものなだけあって美味しい。南瓜のグラタンやサラダ、コーンスープに唐揚げ、デザートには南瓜のモンブラン…普段あまり食べない僕でもついつい食べ過ぎたかな?と思う程には美味しさに腹が膨れていた。


その後ひとしきり騒いだ後、みんなで集合写真を撮る。こんな写真は中学以来で懐かしさに頬が緩んだのは僕だけじゃないはず。
楽しい時間も、始まりあれば終わりがあるもので『また』という言葉を残して解散になった。
一方僕は赤司君に呼び止められた為まだ、帰らず側に座ったまま手持ち無沙汰が落ち着かない。ちらり、と横を見ても変わらない状況に内心挫けそう。


「…ふふっ」
「!赤司君…わざとですか!」
「なかなか、可愛かったよ?不安気に落ち着かないテツヤは」
「悪趣味です…あ」
「何?」
「言うの忘れてました、トリックオアトリート、です」




意地悪ですよね?
離れた間に変な方向で性質が曲がった気がしてならないですが、大体いつもの事なのでこの際無視します。
今日限定で使える言葉をかければ、少し驚いたあと見惚れんばかりの笑顔を向けてきた。


あ、これは何か企んでいるな。


そう分かり易い程に発せられる空気に、何か間違えたのかもしれないと思い始めてしまう。けれど、取り返せない言の音は今更飲み込むことも出来ずにただ審判を待つ前の心境。



「じゃあ、僕も言おうかな…トリートオアトリック」
「え?間違えてませんか?それ…」
「いいや、合ってるよ、そうだな訳はこうさ」








「悪戯してくれないと、甘いお菓子あげないよ?」






「今、僕はお菓子持ってないから、テツヤは僕に悪戯しないといけないね」
「!!あ、あかしくん…!」
「ほら、してくれないの?」



呼び止めた理由は“これ”だったらしい。
単に簡単な話だったのだ。恋人である僕と触れ合いたい、それだけ。

カチンと固まった僕に赤司君は苦笑するように微笑むと、その腕を伸ばし抱き締めた。
あたたかい体温に少し強ばりが解けたものの、悪戯をしないといけない、そうどこか焦る心に体が連動してしまっている。



「…はぁ、テツヤ妥協案をあげようか?」
「すみません…」
「謝らなくていいから、ひとつ、僕にテツヤからキスして?これで悪戯にしてあげる、でも、後で甘い愉悦を死ぬ程与えてあげるし僕も貰うから覚悟しておくように」


「…うぅ…はい」



目を瞑った赤司君の肩に手を添えて近づけば、いつ止まってもおかしくないくらい跳ねる心臓に落ち着け、と念じながら拙い押し付けるだけのキスを贈る。



そんなモノでも離れ際に目を開けた赤司君は嬉しそうにしてくれるから、僕は申し訳なく思ってしまう。
でも、そんな事絶対赤司君には言わない、言えない。もし言ってしまったら悲しそうな顔をすることは目に見えているから…



好きです。



消えるお化けのような気持ちじゃなくて、明日からもずっと続く想い。


だから、ずっと僕に君を触れさせて、代わりに僕をあたためて。君がさよならの言葉で消えるまで…



今僕は君の背中に手を回すそれしか出来ないのです。





トリック、オア、トリート


どっちか、なんて僕にはありません。




交換条件のない想いは君だけに





end








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