こっち向いて、捕まえて
*高智さんのサイト『
空模様』の八万打記念企画でリクエストした赤黒です。
それは、ある冬の日。赤司君との電話中の会話からだった。
「犬を飼っているんだって?」
「…はい、ですがなんで知ってるんですか?」
よくよく聞けば、黄瀬君経由で知ったらしい。こういう経緯が有って…と話せばテツヤらしいね、そう苦笑気味に返してきた。
赤司君が見てみたいと言ったので、とりあえず一緒に写っている写メを添付して送信ボタンをぽちり。
すると、再度赤司君から電話があってどこか嬉しそうな明るい声が耳をくすぐり、少し気恥ずかしい気分になった。
「予定合わせてそっちに行くから」
バスケ部の練習や主将としての責務があるのでは?と問い掛ければテツヤに会いに行きたい僕の気持ちや想いを蔑ろにする気か?なんて怒られてしまった。
そういうつもりは無かったけれど、やっぱりただでさえ忙しい赤司君に無理をしてほしくなかったのだ。
幾日か経った約束の日、赤司君が僕の家に泊まりにきた。
当初話していた通り二号へ会いに行くことにする。道すがら話を聞けば、赤司君が珍しく二号を直接見るのを楽しみにしていたらしい。
「ほら、毛繕い用の道具まで持ってきたんだ…冬毛が生えてきてもふもふしてるって言ってただろう?」
「そうですね…それでわざわざ買ってきたんですか?」
「そうさ、ぼくが自ら選んだ物はかりだよ」
本当にどうしたのだろう?確か記憶の中、いわゆる中学生時代犬の類は嫌いだったはず。なのにこの浮かれようははっきり言って動揺を生み出していた。
「着きました…二号ー!」
「わん!」
体育館の近くで名前を呼べば元気な声と姿を見せてくれた。先程の会話通り若干ふんわりした体躯はさわり心地が良い。
短い足で駆けてきて、少し手前で足を止めた。理由は初対面である赤司君が居たからだろう。
「君が二号かい?」
「…わふっ」
「ふぅん…なかなかいいね」
「わん!」
再度足元にやってきた二号。飛び跳ねたりすることはせず、大人しく佇んでいる。
賢い仔だから赤司君の性格を早くも把握したらしい。…黄瀬君に見習って欲しいな、なんて考えたのは内緒。
「ほら、おいで」
物思いに耽っている間に気付けば、赤司君手ずからの毛繕いが始まっていた。
やはり赤司君の選んだ物が良いのか、上手なのか気持ち良さそうに目を細めて体を預けている二号が目に入る。
僕はただ、その様子を見るしかできない。二号と名前が付くだけ好みも似ているのだろうか?
明らかに幸せそうな様子は微笑ましいけれど、羨ましいと思ってしまう。
理由をわかっているだけ、誰か、増してや赤司君に言えるはずもなく口をつぐむしかない。
まさか、二号に嫉妬をしているなんて…
ただでさえ普段生活する場所が遠いだけ、会える機会は限りなく少なくわずかため、こうやって触れ合える時間は一秒も惜しい。
別に二号が嫌いなわけじゃないけれど、赤司君を取られた気分になってしまうのは単なる我が儘。いつもは物欲なんてあまり無いのに何もこういう時に発揮しなくても良いのにと思ってしまう。
「…ツヤ、テツヤ?」
「!あ、何ですか赤司君?」
「いや、ぼーっとしてたからな、どうしたのかと思ってね」
「大丈夫です。ただ考え事をしてただけなので…二号綺麗になりましたね」
「わふっ!」
いつの間にか終わっていたらしい。気付けば、目の前に赤司君が立っていてびっくりしてしまった。
来たときより明らかに綺麗に毛並みを整えられた二号はご機嫌だ。名残惜しいが、帰る時間になった為学校を後にする。
帰り道も、二号を気に入ったらしい赤司君は機嫌が良かった。
「テツヤは、何をそんなに怒っているんだ?」
「…別に…赤司君の勘違いじゃないですか?」
「嘘だな、僕がお前のこと見違えるはずないだろう」
全部見透かされているような視線が恥ずかしく思えて、うつむくしかない。
「僕には言えないことなの?」
うつむいた先に見えるカーペットと自分の足に加え、赤司君の爪先が見えたと思ったら言葉を耳に吹き込むと同時に抱きしめられる。
現金な事だとは思うけれど、温かなぬくもりに先程までささくれだっていた気持ちが消えていくのを感じていく。
「…君が怒らないなら、言います」
「怒られるようなことなの?」
「僕はそう思ってます」
「言ってよ、言わないとわからないだろう…言えるな?テツヤ」
ずるい。赤司君はずるい。
僕が言わない、という選択肢を選ばせてくれない。
「…君が二号ばっかり、構うのが嫌なんです」
「子どもっぽくて恥ずかしいでしょう?」
「その、気持ちを聞いて僕が幻滅すると思った?僕が好きだから嫉妬もするし、複雑な心持ちを昇華しきれずこうして分かりやすく曝してくれる…特に君は感情という物を表に出さないから、嬉しいって思うのは摂理だろう?」
「それに二号の事だけどね、聞いてはいたがテツヤに思った以上似てて、ああしてるとテツヤに僕が手入れをして輝かせている気がするんだよ」
「…なら」
もっと、僕に構って下さい
そう、言えば赤司君は綺麗に笑った。
僕はいつもその笑顔で隣に引き留められる。もっともっと、僕を捕まえて欲しい。
僕は君にだけに気持ちを向けたいから…
こっち向いて笑って?
その指先で捕まえて?
僕は、ずっと君の側に居たいのです。
end
読んだ瞬間に萌え爆ぜました。
こんな私得でしかない設定をこんなにも素敵に書いてくださる高智さんが大好きです。
高智さん、ありがとうございました!