大好きです(黒キセキ(黒赤寄り))

*1,111キリリク。







「最近なんか楽しそうだな」


ホームルーム終了後、帰り支度をしていると、クラスメートの巻藤くんに肩を叩かれた。
「そうですか?」と返すと、「自覚なしかよ」と笑われる。

正直に言うと、心当たりがない訳ではない。
でも、それを説明する時間も惜しくて。

気付けば、帰りの挨拶もそこそこに、ボクは教室を後にしていた。




 …




はやる気持ちを抑えきれず、駆け足気味に体育館へと足を運ぶ。
新しく任命された"教育係"という役職にも慣れた最近は、部活が楽しくて仕方がないのだ。

練習自体は相変わらず気を抜くと吐いてしまう程辛いが、以前に比べて周囲に遅れを取る事は少なくなり、着実に身に付いている実感がある。

そしてそれと同時に、部活中に交わすチームメイト達とのちょっとしたやり取りも、練習を乗り切る支えとなっていた。


まだ放課後になって間もない体育館からは、バスケットボールの弾む音と、聞き慣れた声が響いていた。


「もう来ていたんですね」


弾む呼吸を整えながら、既にそこにいた二人、黄瀬と青峰に声を掛ける。


「黒子っち!」


黒子の姿が視界に入った途端、ぱあっと表情を明るくさせ、黄瀬が駆け寄る。その様子を見てふて腐れている青峰を横目で見つつ、黒子は抱き付いてきた黄瀬の背中をポンポンと軽く叩いた。


「また喧嘩してたんですか?」


呆れを含ませた声で尋ねると、黄瀬は長い睫毛に縁取られた瞳を潤ませ、「だって」と訴える。


「青峰っちが、俺がこうやってくっつくの、黒子っちは本当は嫌がってるんだって言うんス。ねぇ黒子っち、嫌じゃないよね?…もし黒子っちが嫌なら、俺、抱き付くの我慢するから。嫌いにならないで…?」


こんなに大きいくせに、どうしてこんなにいたいけな仔犬のようなのだろう。嫌いになどなれるわけがないじゃないか。

ため息を吐いた黒子は黄瀬の頭へと手を伸ばし、その手触りのいい金糸を撫で付けた。指の間を抜けるさらりとした感触に、思わず目が細まる。


「ボクは、こうして"好き"を身体全体で示してくれる黄瀬くんが大好きですよ。人の言う事なんて気にしないでください。キミは、ボクの言葉だけ、聞いていればいいんです。キミが安心できるまで、何度でも言ってあげますから」


それを聞いた黄瀬はへにゃりと弛んだ顔で「黒子っち大好き!」と叫んだ。
そのコロコロと変わる表情に黒子も安心し、「先に練習始めててくださいね」とやんわりと黄瀬から離れた。
そして今度は、先程からあからさまに不機嫌な青峰の方へと近付く。


「青峰くん。黄瀬くんをいじめるのは止めてください」

「…テツが黄瀬ばっか構ってんのが悪いんじゃねーか。テツの相棒は俺だっつーの」

「それって…妬いてくれたんですか?」


黙り込み俯く青峰の顔を覗き込むと、不機嫌さを持続させつつも頬にはうっすらと赤みが差している。
いつも強気な相棒の控えめな自己主張に愛しさが込み上げ、黒子は口を開いた。


「ありがとうございます。ちょっと嬉しくなってしまいました。でも、もっと自信を持ってください。ボクにとっても、青峰くんは唯一相棒と呼べる、特別な人なんですから」


青峰からの返事はなかった。
しかしちゃんと機嫌は治ったようで、滲み出る雰囲気から先程までの負の色はすっかり消え、頬を染める程度だった赤は耳まで広がっている。

だんだんと他の部員たちも集まり出したようで、体育館は少しずつ賑やかさを増している。

冷静を装いつつ背を向けたまま歩き去る青峰を見送り、黒子は着替えるために部室へと歩き出そうとした。


「ご苦労だったな、黒子。あいつらの相手は疲れるだろう」

「あ、緑間くん。…そんな事ないです。二人とも可愛いですよ」


背後からの声に振り返ると、そこにはうさぎのぬいぐるみを手にした長身が立っていた。

さすがに時間が気になり、壁に掛けられた時計をちらりと確認してみる。
部活開始までにはまだ少し時間があるようだ。

それによく考えてみれば、真面目な緑間が時間ギリギリに来る訳もない。

黒子は安心して、緑間に抱かれているぬいぐるみに手を伸ばし、そのふわふわとした手触りを楽しみ始めた。


「緑間くんも、そのぬいぐるみ、よく似合ってますね。可愛いです」

「か、可愛くなどないのだよ! …それより、黒子。お前今日もラッキーアイテムを持っていないのか? 自分で用意できないのなら俺がお前の分も用意しておくが」

「いえ、結構です。緑間くんに手間を掛けさせてしまいますし」

「しかし…」

「それに、ボクはこれ以上の幸運を手に入れようとは思いません。キミが側にいてくれるだけで幸せなので。ラッキーアイテムよりも、緑間くんに一緒にいてほしいです」

「なっ……」


馬鹿な事を言うんじゃない、と耳まで赤くなる緑間に「着替えに行きましょう」と誘い、部室へと歩き出す。
が、その足はすぐに止められてしまった。


「…紫原くん」


背中にのし掛かる重みと、自分を呼ぶ甘えた声。
顔に降りかかる長めの髪がくすぐったい。


「紫原くん、今日も練習来てくれたんですね」

「だって来ないと黒ちんに会えないしー」

「キミはバスケをしている姿もかっこいいですよ。今日もキミを近くで見れて嬉しいです。一緒に頑張りましょうね」


黒子は紫原の手を取り、部室へと向かった。
いつもはだるそうな紫原も"かっこいい"と言われたのが嬉しかったようで、自分の手を引く黒子の後ろを軽い足取りで付いて行く。



こうして、時間通りに部活が始まった。




 …




部活は順調に終わり、自主練習も済ませた黒子は汗を拭きつつ部室に足を踏み入れた。


「黒子か。お疲れさま」

「赤司くんも、お疲れさまです」


記録の手を休め顔を上げて微笑む赤司に、黒子も同様の笑みを返した。

赤司はいつもこうして誰より遅くまで残っていた。
彼の事だから、部長として任された仕事以外にも、自主的にやると決めた事がたくさんあるのだろう。


黒子は手早く着替えを済ませ、邪魔をしないよう、そっと赤司の元に近付いた。

しっかりと着込まれた制服は、姿勢の良さも相まって、ハードな練習の後だというのに少しも疲れた様子を感じさせない。
形の良い指先からは、彼そのもののように端正で繊細な文字が紡ぎ出されている。

部誌に目を落としていた赤司はその視線に気付き、少し困ったように眉尻を下げた。


「どうした、黒子? そんなに見られていては緊張してしまうよ」

「いえ、…何か、お手伝いできる事はありませんか。キミの力になりたいんです」


机に手をつき、赤司の顔を覗き込むように身を屈めると、赤司は観念したように小さく息を吐いた。


「それじゃあ、これが終わるまで側にいてくれ」


黒子は満足げに頷く。

同じ会話を何度となく繰り返し、二人の間ではすでに暗黙の了解ともなったその言葉。
それは"一緒に帰ろう"という合図であると共に、ただ互いの側にいられる幸せを噛み締める言葉でもあった。


「わかりました。側にいます」


部室の奥に置かれたベンチに腰掛け、鞄から小説を取り出した。
静かな室内で耳を澄ますと、時折赤司のため息混じりの呼吸が聞こえる。

彼がこうして疲れを見せるのは自分の前でだけだという事を、黒子は知っている。

近くにいても注意していなければ見過ごしてしまいそうなその疲れを、自分はいち早く見抜きたい。
そのためにも、できるだけ彼の側にいたい。

そう決意を新たにしつつ、黒子はまた小説へと意識を戻した。


帰り道では何を話そうか。


無意識に赤司との時間に思いを馳せてしまい、小説にのめり込む事は難しそうだと黒子が悟るのは、もう少し経ってから。




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