取材(赤虹)

*999キリリク。







部活後、いつも通りコーチとの話し合いを終えた俺は、いつも通り帰り支度をするため部室の扉を開けた。
目の前に広がるのは、いつも通りの喧騒。
見た目にも賑やかなキセキ達がいつも通り騒いでいるのを横目で見つつ、着替えを取り出そうと自分のロッカーに手を掛けると、


「あ、キャプテン!」


何故か妙に目を輝かせた黄瀬に駆け寄られた。


「お手本見せてください!」


気付けば全員の真剣な視線が俺に集中していて、まだ内容も聞く前だというのに、既に断れない雰囲気が出来上がっていた。




 …




求められた"お手本"は、雑誌のインタビューの回答についてのものだった。


それぞれが特出した才能を持つキセキの世代。
それを放っておく記者などいるはずもなく、彼らは事ある毎に記者に囲まれる。
大会会場では勿論、学校にも押し掛けてくる記者たちとの受け答えは、何度経験しても慣れるものではないらしい。
バスケにおいては並外れた実力を持つ彼らも、そこから一歩離れれば普通の男子中学生なのだ。

しかし、そいつらをまとめる"部長"という立場にありながらも、俺は彼ら以上に普通の人間だ。
帝光中バスケ部主将としてインタビューに答えるのも、実はとても苦手だったりする。


結局アドバイスすらできずに今日の"お手本"披露は幕を閉じ、解散後、やっと帰り支度を始めた俺は、着替えをしながら長いため息を吐いた。


「俺、インタビューとか苦手なんだよ…」


そうぼやくのを、他のキセキ達が帰った後も残って部誌を書いている副部長の赤司だけが聞いている。

赤司は書き込む手を休めて顔を上げ、「巻き込んでしまってすみませんでした」と苦笑した。
お前が謝る事じゃねえよ。
そう返しつつも、意に反してつい愚痴のような事を口走ってしまう。


「お前、インタビューでも何でも器用にこなしそうだよな」


言ってから、しまった、と思った。
今のは嫌味っぽかったかもしれない。

横目に赤司の様子を伺うと、こちらを見ていた相手と目が合った。


「…悪い」


気まずさのあまり急いで目を反らし、謝る。
すると、赤司は突然笑い出した。
何がそんなに可笑しかったのだろうか。
肩を震わせながら「謝るくらいなら言わなければいいのに」などと漏らす赤司を戸惑いつつ眺めていると、彼は突拍子もない事を言い出した。


「じゃあ、練習でもしましょうか。キセキの世代の上に立つキャプテンとして、やはり雑誌の取材くらいは難なくこなして欲しいので。俺が記者役をやりますから、キャプテンは俺の質問に答えてください」


にっこりと笑うその表情には裏があるようにも感じたが、俺のために後輩が協力してくれるというのを無下にもできない。


「…おう。よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」





赤司は早速質問を投げ掛けてきた。


まず聞かれたのは、今度の大会に向けての課題、今後の目標など部長としての質問や、バスケを始めたきっかけ、どんな時が一番嬉しいかなど、バスケに関する質問。

これはよく聞かれる事だったので、割とスムーズに答える事ができた。


次に、バスケ以外の趣味や嗜好について。
好きな食べ物、好きな言葉など、少し踏み込んだプライベートな事を聞かれる。
ここまで聞かれる事はあまりないとは思うが、絶対にないとも言い切れない。
それに、実際何の準備もなく聞かれて困るのはこの手の質問だろう。

慣れないため所々言葉に詰まりながらも、俺が答えやすいように赤司が質問の組み立て方を工夫してくれたのもあり、何とか答えた。


だが、そこで気付いていれば良かったのだ。
赤司が淡々と問い掛けた次の質問は、俺には全く未経験の物だった。


「好きな人はいますか?」


まさかの問いに、思わず「は?」と聞き返してしまう。

俺はここで初めて、赤司がインタビュー練習をしようと言い出した訳を理解した。
こいつは最初からこれを聞くつもりだったらしい。
目の前にいる男は、一見真面目を取り繕いつつ、目だけは感情を隠す事なく心底面白そうに細めている。

赤司の思惑通りになってしまったのは面白くないが、ここで適当に誤魔化しても後々何か言われそうだ。
仕方ない。
覚悟を決め、答えを探ってみる。


好きな人。
今まで特に意識した事はなかったから、いないと言ってしまっても嘘にはならないのだろう。

しかし、それを口に出そうとすると何故か息苦しさに喉が詰まる。


返答に詰まっている俺を見て赤司はくすっと笑い、さらに質問を積み重ねていく。


「顔が赤くなってますよ。好きな人、いるんですね。誰なんですか?」


誰か、と聞かれた瞬間、目の前にいるのと同じ赤色が頭を過る。

マジかよ。俺こいつが好きなのか?
…いや、さすがにそれはないだろ。男同士だし。
でも、それなら何でこんなに顔が熱いんだ?


俯いて必死に考えてみても、中々答えは出て来ない。
きっと眉間には皺が寄っているだろう。


「ちなみに、俺はキャプテンが好きです」


俺が答える前に、また赤司が何か言った。


「ちょっと待て、今考えてんだ………っておい、今何て言った?」


さらっと有り得ない言葉が聞こえた気がして、ガバッと顔を上げる。
そこには、優しく目を細めた赤色。


「キャプテンが、好きです」


余裕さえ感じさせる赤司の微笑みとは裏腹に、言葉の意味を理解した俺は元から火照っていた顔がさらに熱を帯びていくのを感じる。

初めて告白される相手が男だなんて夢にも思わなかったが、決して嫌な気はしない。
それどころか、これは…。


「お手本は見せました。キャプテンはどうですか?」


懲りずに質問を重ねてくる赤司に返す言葉など、もう、一つしか思い付かない。


「…お前が、好きだ」


年下のこの男の策略に乗る形になってしまった事が少し悔しくて、軽く舌打ちした。

「ありがとうございます」と笑う赤司の顔は、今まで見た事がないほど幸せそうだった。








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