かくしごと(氷紫)

*345キリリク。







 部活が終わってからというもの、紫原は携帯ばかり気にしている。

 どうやらメールの返信を待っているようなのだが、1分も間を置かずに携帯をチェックし続けるというのは、さすがに気にしすぎではないだろうか。


 ふと頭に浮かんだ"まるで恋する乙女のようだ"という言葉を口にはせずに、氷室はできるだけ静かに、ただ「誰とメールしてるんだい?」とだけ尋ねた。


「んー? 赤ちんだよ」


 やはりそうか。
 氷室は紫原に気付かれないように小さく息を吐いた。




 メールの相手は氷室の予想通りの人物だった。

 赤司征十郎。
 曲者揃いのキセキの世代を見事にまとめていたキャプテンで、無敗を誇る絶対王者。

 肩書きだけ見れば間違いなく恐怖の対象である彼を、紫原は純粋に慕っていた。
 その慕い様は、とても友情や家族愛、恋愛などといった一言で言い表せるものではない。

 一途に素直に赤司を好いて、赤司のために行動したいと考え、それを実行してきたのだ。

 その想いは、赤司の傍を離れ、氷室と付き合い出した今でも簡単に変えられるものではない。



 しかし、そんな紫原の純粋さこそが氷室を惹き付けて止まないものなのだ。


 自分の中で膨らむ厄介な感情に、氷室は「アツシは本当に赤司くんが大好きだね」と、相変わらず携帯を気にしている紫原へ自嘲にも似た笑みを向けた。


「そういえば、待ち遠しいっていうのを言ったことわざがあったよね。確か一と千を使ってて…ああ、『千里の道も一歩から』?」

「…もしかして『一日千秋』の事?」

「そうそう、それだ」

「全然違うし。しかもことわざじゃなくて四字熟語だし」


 日本語は難しいね、と苦笑する氷室に、紫原は堪えきれずに吹き出した。

 ていうか何なの、いきなり。と咎めつつもやっと笑顔を見せた紫原にひどく安心して、氷室が浮かべていた苦笑も自然な笑顔へと和らいでいく。


「あ、室ちん、やっと笑ったね」


 その言葉に、氷室は驚いて顔を上げた。

 どうやら紫原は気付いていたらしい。

 氷室がメールに気を取られている紫原を気にしていた事も、紫原に向けていた笑顔の裏の寂しさも。


 つまり、それに気付いた上で、敢えて嫉妬を煽っていたのだ。


 ごめんね。なんか嬉しくて、つい。
 そう呟いて氷室の手をぎゅっと握る紫原。


「…アツシには、敵わないな」


 てのひらに舞い込んだ熱を閉じ込めるように優しく包み返し、氷室もそう呟いた。



 でも。
 いつだって見透かされてしまうけれど、それでもきっと全部は知らないだろう。



 俺がどんなに君を好きか、当ててごらん?








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