目覚まし(黒日)

*333キリリク。







 窓から差し込む明るい日射しが夜の終わりを告げ、小鳥の楽しそうなおしゃべりは素敵な一日の始まりを知らせる。
 しかしそれらは、この布団のあたたかさを振り払って起き上がるほどの決定的な刺激とはならなかった。


 ―そろそろ起きなければいけない時間だろうか。


 そう思いつつも、黒子は布団から出ようとはしない。
 このまま寝ていれば必ず自分を起こしに来てくれる"彼"を待っているのだ。



 コンコンコン。

 不意に、ドアをノックする乾いた音が聞こえた。


 ―彼、だろうか。


 未だまどろむ意識の中でぼんやりと考え、黒子は続く言葉を待つ。


「テツヤ様」


 ああ、彼だ。来てくれたんだ。

 待ちわびていた愛しい声に嬉しくなった黒子は、敢えて布団をすっぽりとかぶった。



「…入りますよ」


 失礼します、と入ってきたその者は、黒子の姿を確認すると軽くため息を吐き、黒子の枕元に座って声を掛けた。


「テツヤ様。また寝たふりですか?」


 そう。黒子が寝たふりをするのは、今朝に限った事ではない。
 執事である日向が黒子の"目覚まし"係を仰せつかってからというもの、黒子が素直に起きる事など滅多になかった。

 初めの内こそ騙されもしたがもうすっかり慣れてしまった日向は、布団ごと黒子を揺すり、「いい加減起きないと遅刻しますよ」と言葉を続ける。


 しかし、その言葉は、布団から伸びてきた黒子の手によって途中で遮られた。


「やはりバレてしまいましたか。おはようございます、日向。今日もありがとうございます」


 寝たふりこそしたが完全に目覚めきってはいない黒子は、とろけるような目付きで微笑みながら、日向の頬を愛しそうに、優しく撫でる。
 少し冷たいその手は、朝から忙しく働き回ったためすっかり温まっている日向の頬に心地好い。


「日向は温かいですね…抱き枕にしたら良く眠れそうです」


 そう言ってふわりと笑う黒子に、日向の頬は再び微かな熱を帯び始める。

 しかし、ここで日向が添い寝の誘惑に負けてしまえば、主人である黒子は確実に遅刻してしまうだろう。
 執事として、それを見逃す訳にはいかない。


「まだ寝るつもりですか? というか抱き枕って…うわ!?」


 それは、日向の精一杯の強がりだったのだが。


「そんなに頬を赤くして…説得力がありませんよ」


 ぐい、と手を引かれ、日向は黒子の隣に倒れ込んだ。
 日向は突然の事に戸惑い、暴れることもできずに固まった。

 かあっと赤くなっていく日向を見て黒子は満足げにくすっと笑うと、日向の背中へと回した腕に力を込める。


「日向。かわいいですね。…もう少し、このままいさせてください…」


 そのまま長いまつげを伏せる黒子の幸せそうな顔を至近距離で眺め、日向は呟いた。


「…5分だけですよ」



 日向は結局、この主人にはどうしたって敵わないのだ。





(…寝癖だらけの頭で誘ってんじゃねえ、ダァホ…っ)








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