腐男子赤司〜メール〜(高+赤→黒)

*高智さんへの相互記念作品です。







とある土曜日。

澄み渡る空に幾分暖かくなった風が心地よい朝、赤司から届いた一通のメールは、たまの部活のない休日を寝過ごそうとしていた高尾を一気に目覚めさせた。


二人がメールのやり取りを始めて、そろそろ一ヶ月になる。
現在では、高尾と赤司は暇さえあればメールを交わす仲になっていた。


そもそも何故赤司と高尾が互いのメールアドレスを知っているかというと、事の発端は一ヶ月前。キセキの世代が仲直りのストリートバスケのために集まった時に遡る。




「WCで試合した時から思っていたんだが…お前からは僕と似たものを感じるな」


全く歯が立たなかった対洛山戦以降軽くトラウマにもなっていた相手からの急な話し掛けは、それだけでも十分に冷や汗ものだった。
しかし、高尾がそれを落ち着かせる暇も与えず、赤司は追い打ちをかけるように衝撃的な問い掛けをしてきたのだ。


「お前、腐男子だろう?」


…何故バレた。
天帝の眼というのは、こういう事まで見通してしまうのか。

辛うじて保たれていた高尾の意識は見事に真っ白になった。



赤司の言う通り、高尾は腐男子だ。

相棒である緑間のツンデレに悶えるのは基礎代謝。
部活中に繰り広げられる先輩たちの息の合ったプレーやちょっとしたやり取りに「あれはもう夫婦の域だよなぁ…」と感心しつつチラチラ聞き耳を立てていたり、緑間から帝光中時代のキセキの確執について聞く度「うっわやべぇ昼ドラ展開来た!!www」と心躍らせていたりする。

しかし、それをこの男に明かした事は、断じてない。


戸惑いのあまり一瞬思考を停止した高尾だが、少し間を置く事で脳は空白状態から薄い灰色程度には回復した。
それと同時に、ふと、先程聞いた赤司の発言を思い出す。


「…似たもの…?」


その怪訝そうな呟きに小さな笑みを浮かべた赤司は、楽しそうに言い放った。


「そう。実は、僕も腐っているんだ」


そして急激に芽生えた連帯感。
思いきって話題を振ってみれば、どちらも緑間に関しては総受け主義だという事に気付く。



こうして、元来ノリのいい高尾は恐怖の対象だった赤司ともすぐに打ち解け、少数派同士絆を深め合い、連絡先を交換するまでになったのだ。




やり取りを始めた初期の話題は、専ら緑間についてだった。

赤司は中学時代緑間が一番の仲良しだったし、高尾は現相棒。
お互い話題に事欠かない緑間受け妄想は二人が仲良くなったきっかけであったし、相手の地雷を知らなかった事も相まって、確実に盛り上がれる話題として重宝したのだ。


しかし、メールの回数を重ねるにつれ、二人ともわりと雑食な事に気付く。


そこからの温度は一気に上昇した。

キセキ内でのCPだと誰と誰をくっつけるのがいい、やはり高校に入ってからは相棒組の存在は無視できない、各校の先輩たちが夫婦過ぎて辛い、告白はどっちからだ、いっそあの二人は+のままでも十分美味い。

語りたいだけ語り、同意、時には反論も経て、同人誌の発行もできそうだというところまで行き詰めた話になる事もあった。



そんな中、初めて高尾が黒子相手のCPについて触れた時の赤司の反応は、高尾にとってWCでの出来事と同じか、またはそれ以上の恐怖を覚えさせるものだったかも知れない。


高尾からしてみれば、"黒子総受け"という設定はあのメンバーの中で腐った事を考える上で必然だった。
桁外れに高身長の者が揃う中で唯一170cmに達しない黒子はそれだけで可愛く見えたし、IHやWCでの試合を通してキセキの世代や相棒たちの思考にも多大な影響を与えた芯の強さと仲間への想いは、決して無視できるものではない。

そのため、赤司の地雷など知らない高尾が「黒子は誰と組んでも美味いよなー」と言ったのは、ごく自然な流れだったのだが。


そのメールの送信完了と同時に、室内の空気が一変した。
穏やかだった外の風は急に荒れ始め、閉めていたはずの窓から勢い良く吹き込んできた。
机の上のペン立てが倒れ、飛び出した鋏が床に突き刺さる。
そして、赤司からの返信。


『テツヤに関しては赤黒一択だ』


あ、ヤベ。地雷踏んじゃった。

より一層激しさを増した風と急に陰り出した空に得体の知れない悪寒が走る。

天候をも左右し、自分の生命権すらもいつの間にか手中に収めていたらしい赤司の怒りを目の当たりにした高尾は、その瞬間、心に決めた。

自分も赤黒推しになろう、と。



高尾が「真ちゃんが幸せなら他の人と絡んでもいいんじゃね?つーかかわいい真ちゃんが見れて俺得」派だったのに対し、赤司は黒子が自分以外の人間と関わる事を快く思わないらしかった。
きっとその嫉妬深さには、京都と東京という物理的な距離の長さも少なからず影響しているのだろう。


今回届いたメールの内容も、どうやら黒子と顔を合わせる事が出来ない不安から来た愚痴のようだ。


朝からメール送ってきてるって事は、今日部活休みなんだろ? 東京来ちゃえば?ww

軽いノリでそう返信すると、すぐさま新着通知が届く。


「実はもう来てる…って、マジかよ?!」


未だ布団の中でまどろんでいた高尾は軽く身支度を整えると、赤司の待つ近所のマジバへと急いだ。




 …




ちょうどいい具合に陽が射し込む窓際の席、そこで赤司は物憂げな様子でシェイクを抱えていた。

方々の席からしきりに熱い視線を送っている彼女たちは、この絵になる男が頭の中で『元カノ・ストロー外袋の前で見せ付けられるストロー×シェイク』についての考察を展開しているとは夢にも思わないだろう。
まぁ、俺も最初聞いた時は驚いたけど。


店内に入った高尾に気付き軽く顔を上げた赤司へ無言の挨拶を送ると、高尾はその席へ近付いていく。

お待たせ。席に着こうとした高尾がそう声を掛けるより早く、赤司は待っていたとばかりに語り始めた。


「テツヤがね、『キミがそんな動物好きだとは知りませんでした。ボクも今朝撮った写メを送ります。2号、かわいいんですよ。』とか言って、写メを送ってくれるんだ。たまに画面の端にテツヤの指が映っているのが微笑ましい…というのはこの際置いておこう。ああ、僕が動物好きだと思われたきっかけは、テツヤの興味を引こうと送ってみた、通学路ですれ違った猫の写真だったんだけれどね。それを送った時のテツヤの反応が中々かわいくてね…文章越しにでもテツヤが微笑んでいるのがわかるというか、『猫さんですか。かわいいですね』って何だそのさん付け! かわいいのはお前の方だテツヤ!!というか…。うん、まあ、それも今はいいんだ、テツヤのかわいらしさについて話していたら本題に入る前に日が暮れてしまうからな…。で、せっかくのテツヤからのメールなんだから、当然保護しておくだろう? 画像ももちろん保存して、バックアップも取っておく。それを昨晩見返していたんだが…気付いたんだよ。僕の携帯が、動物園仕様になっている事に…!」


一息でのまくし立てに思わず吹き出しそうになったが、本人は至って真剣だ。

いつもしゃんとして自信に満ちた背筋は、伸びてはいるもののどこかそわそわと落ち着きがない。
普段は威圧感を放つ二色の瞳もどこか不安げで、不謹慎にも少しかわいいと思ってしまう。


高尾が赤黒を推す理由はここにもある。

絶対君主である赤司が、黒子の一挙手一投足に翻弄され、余裕を失くす。

そんなの、応援したくなるに決まっているのだ。
腐男子としても、友達としても。


「僕が欲しいのは動物の写真じゃない。テツヤの写真なんだ」


ぶつぶつと不満を漏らし続けている赤司を少しでも元気付けられるよう、高尾は言葉を掛ける。


「今度さ、遊びに行かね? 黒子は自分で自分の写メ送るようなヤツじゃないし、他のヤツに黒子の写メ撮られるのも嫌なんだろ? ならやっぱ、赤司が自分でやるしかないっしょ。いきなり二人で出掛けるのはハードル高そうだから、俺と…真ちゃんも誘ってみるか。4人で行こうぜ!」


実は赤黒の絡みを間近で見たいというのもあったが、途端に輝き出した赤司の瞳を見たら、そんな事は言えなくなってしまった。

高尾は提案を続ける。
春休みに入ってからが一番皆の都合がつきやすいだろう。行き先は、思いきって遊園地とか動物園とか、定番のデートスポットに誘ってみてもいいかもしれない。その際は先にチケットを入手しておき、行った事がない赤司と緑間を連れて行くが、チケットが1枚余るから黒子も一緒に行こう、と誘ってみよう。

一息ついた時、それまで黙って話を聞いていた赤司がふっと鮮やかな笑みを浮かべ、口を開いた。


「君に相談して良かったよ、高尾君。これからは親愛の意を込めて『和成』と呼ばせてもらってもいいかな?」


高尾は目を見開く。
仲良くなってからも変わらなかった『君』呼びに少しのよそよそしさを感じてはいたが、まさか赤司の方から歩み寄ってくれるとは。


「もちろん! むしろ嬉しい! …じゃあ俺も、『征ちゃん』って呼んじゃおっかなー?」

「ああ、構わないよ。こういうのも、案外楽しいものだね」


赤司の楽しそうな笑顔に惹き付けられ、高尾も自然と破顔する。

彼はきっと、今までこういう打ち解けた人付き合いとは無縁だったのだろう。
気心の知れた友達。求めれば得られるとも限らないとはいえ、赤司はそれを求める事すら知らなかったのだ。
あの基本他人に無関心な緑間が母親のように心配していたのも頷ける。

黒子への想いが彼を変えたとすれば、彼の成長もこの恋次第という事になる。
これは、応援しないわけにはいかない。


「絶対成功させような!」


高尾がそう意気込むと、赤司は少し照れたように微笑んだ。




 …




「赤司くん、東京に来ていたんですか」


二人がそのままマジバで話し込んでいると、飲み物の乗ったトレイを持った黒子が近寄ってきた。

同じ席に座るよう促すと、黒子は赤司の隣に腰掛ける。
ちらっと覗いた赤司の頬は、心なしか普段より血色が良くなっていた。


「それにしても、赤司くん、高尾くんと随分仲良くなったんですね。まさか名前で呼び合う仲とは…」


バニラシェイクを啜りながら、黒子は呟く。

これは待ちに待っていた黒子の嫉妬か?!
もしかして黒子も赤司の事が…!

二人のそんな期待に満ちた熱い視線を受け流し、黒子はストローから口を離し、少しだけ高揚した様子で次の言葉を吐き出した。


「赤高ですか、高赤ですか?」

「…は?」


黒子の口から紡がれた予想外の発言に、二人は絶句する。
呆然と顔を見合わせる二人を前に、黒子はさらに言葉を続ける。


「赤司くん、やっとキミの気持ちが少しわかったような気がします。同性での恋愛というのも案外いいかもしれませんね。ボク、目が覚めました」


…気付いてほしいのはそっちじゃないんだよ。

そう言えるはずもなく、二人は口をついて出そうになる大きな溜め息を必死に飲み込んだ。




どうやら、赤司が報われるのは、もう少し先の話になりそうだ。








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