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母親は、俺が小さい頃に他界した。
父親も、数年前にその後を追った。
遺されたのは、俺と、継母と、継母の連れ子の姉達だった。
…
「真デレラっちー! おはようっス! ご飯はまだっスか?」
「真デレラちんー。お腹すいたー」
ああ、今日もいつも通りの朝だ。
「煩い黙れ騒ぐな。もう少しでできるからおとなしく待つのだよ」
姉達を軽く諌め、朝食の準備をする。
料理は不得手だが、他にやる者がいないため仕方なくやっている(姉達はプロ並の腕だが、食材にこだわり、毎回食べきれない程の豪華な食事を作るため、不経済で仕様がない。お義母様は論外だ)。
初めの頃は調理中何度となく危ない目に遭ったが、人事を尽くしていた甲斐あり、今ではやっと食べられる程度には作れるようになった。
うむ、やはり朝食におしるこは欠かせないな。
作り終えた朝食を盛り付け、リビングへと運ぶ。
我先にと食べ始める姉達に呆れつつ、ふと思い出す。
「お義母様はまだ寝ているのか」
「みたいっスね」
まぁ、いつものことだし。
そう言ってまた無心に食事を詰め込む姉達に背を向け、俺はお義母様を起こしに行った。
「お義母様、入るのだよ」
ノックして部屋に入ると、お義母様は大きなベッドから布団を蹴り落とし、長い褐色の四肢を放り出して仰向けに寝ていた。
「まったく、何て格好をしているのだよ」
寝ているお義母様の頭をばしっとはたき、いい加減起きるのだよ!と怒鳴る。
「んあー…シンか。はよ」
お義母様は頭をぼりぼりと掻きながら起き上がる。
「朝食はもうできている。早く食べるのだよ」
「おい、待てよ」
部屋から出て行こうとする俺の腕を素早く掴んだお義母様は、ニヤリと口角を上げ言い放つ。
「着替え、手伝ってくれねーの?」
「…ほぅ、もう介護の必要な歳になったのか」
俺を掴んでいる腕を掴み返し、そのまま捻る。
苦痛に顔を歪めベッドでうずくまるお義母様を一瞥して「ずっとそこで寝ていろ」と吐き捨て、何もなかったかのように部屋から出る。
ああ、本当にいつも通りの朝なのだよ。
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