V


「くーろこっちっ!!」

「わ、黄瀬くん。…いつも言ってるじゃないですか。飛び付くのはやめてください」

「だって会えて嬉しいんスよー」


何だかんだでずっと同じクラスの黄瀬くんは、ボクの友達です。
黄瀬くんはとてもテンションが高く、いつもまとわりついてくるので、一緒にいるとため息が尽きません。

でも、今日は少し大目に見てあげようと思います。
春休み明け最初の日ですから。




ボク達は、小学5年生になりました。

黄瀬くんは今年も同じクラスになったので、また落ち着いて本を読む事ができない一年間が始まりそうです。


でも今年は、楽しみな事もあります。




 …




「テツーっ!」

「大輝くん! 転ばないでくださいね」


息を切らしながら走り寄ってくる大輝くんを抱き止め、手を繋いで歩き出す。
これが、今年から下校時の習慣になりました。


一年生になった大輝くん。
元気な大輝くんはクラスでもすぐにお友達ができたようで、毎日楽しそうに学校へ通っています。
かわいい弟が充実した毎日を送っているというのは、兄としては嬉しい限りです。

…本当は大輝くんを独り占めする時間が減って少し寂しいのは、秘密です。


「今日も楽しかったですか?」

「おう! すげー楽しかったぜ!」


そう言って、今日あったことを次から次へと話してくれる大輝くん。
拙い言葉で一生懸命伝えようとする姿に、ボクも自然と笑みがこぼれます。

すると、大輝くんは突然話を止め、少し寂しそうな顔になりました。

そしてボクを見つめ、「テツも一緒だったらもっと楽しかったんだけどな…」なんて言ってくれました。

ああ、なんてかわいいんでしょう!


ボクはぷくっとふくらんだ大輝くんのほっぺを軽くつつき、提案してみました。


「今度、お友達を家に連れてきてください。みんなで一緒に遊びましょう?」


もちろん、大輝くんは喜んでくれました。

大輝くんが恥ずかしく思わないように、ちゃんといいお兄ちゃんでいなければ。

少し緊張しますが、やはり楽しみですね。





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