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そもそも、こんな物を持っている時点で変なんだ。

あいつは男だし、前にふざけて女装させようとしたら本気で嫌がっていたから、そっちの趣味があるはずもないし。


問い詰めた時の慌てようだっておかしかった。

目をキョロキョロさせて、赤くなった顔を隠すみたいに眼鏡を掛け直して、俺の手からそれを奪い取って、ゴミ箱に投げて。
「そんな物、忘れるのだよ」なんて。

忘れられるワケないじゃんか。



脳裏にチラつくのは、どうしたって女の影。

あの無愛想な真ちゃんに限ってと油断していたが、同性の俺から見ても魅力的な男を、女が放っておくわけがなかったんだ。


そして、さっきのあの電話。
「今日は遅くなる」という言葉と、後ろから聞こえる、親しげな女の声。


真ちゃんは真面目だから、軽い気持ちで女に手を出す事はないだろう。
その真ちゃんが、今、女と一緒にいる。
それならば、もう、俺の出る幕じゃない。

そう思うしかなかった。




初めから決めてはいた。
もし真ちゃんが女を好きになったら、潔く身を引こうって。

それが本来の自然な形だし、俺と一緒にいては絶対に叶わない"家族を作る"という事も、相手が女ならできるから。

すげーツラいし苦しいけど、でも、俺が一番に望むのは、真ちゃんの幸せだから。
たとえそれを隣で見る事ができなくても、真ちゃんが幸せならば、構わない。

だてに努力だけで這い上がってきたワケじゃないんだぜ?
…我慢には、慣れてんだ。





捨てられた口紅をゴミ箱から拾い出して、風呂場の鏡に綴るメッセージ。

言いたい事はたくさんあったけど、タイルの冷たさに誘われて恨みばかり書いてしまいそうだったから、一番伝えたかった事だけ書いた。


滲む視界に映るのは、滲まない文字。

いつだったか、真ちゃんは年上の女が好みだって言ってたっけ。
きっとこの真っ赤な口紅は、大人っぽい真ちゃん好みの女によく似合うんだろう。

鮮やかなその色が妙に目に痛くて、元々少なかった私物をまとめ飛び出すように家を出た。

行く宛てなんて、どこにもないままに。





(今までありがとう。幸せになれよ。)






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