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じゃあ、行ってくるっス!


綺麗に着飾った義母達がそう言って家を出てから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
舞踏会はもう始まった頃だろうか。


(…暇なのだよ)


いつもはうるさいこの屋敷も、人がいないとやはり静かで。
いつも忙しく家事をしていたため、暇を潰せる趣味などもなく。
真デレラは、ただ、独りでいた。


(こういう時は、寝てしまうのが一番かも知れないな)


少なくとも、寝ている間は無意識だから、考えすぎて疲れる事はないだろう。




ところが、ベッドへ向かった真デレラを迎える者がいた。


「やあ、やっと気付いたか」

「誰だ貴様はっ!! …というか、いつの間に……?!」


僕は魔法使いだよ。

我が物顔でベッドに腰掛けている真っ赤な髪の自称"魔法使い"は、そう言って妖艶に微笑んだ。


「お前の願いを叶えに来たんだ、真デレラ」


胡散臭い男だ。

真デレラはそう感じた。


しかし、"魔法使い"の言った事を、つい考えてしまう。


(俺の願い、とは、何だろうか)


愛すべき家族に大切にされ、忙しくはあるが特に不自由なく暮らしている真デレラは、自分の願いなど考えた事がなかった。

俺は今のままでも十分幸せだ、だから他に望むものもない。

そう言い掛けた瞬間頭を掠めたのは、先程感じた苦しさ。


「俺は…願いなど、わからないのだよ」


気付けば、そう口にしていた。


「お父様が亡くなったのは寂しいが、お義母様も姉達も、俺の事を大切にしてくれている。家事は確かに大変だが、やりがいもある。ただ、ずっとこのままでいることが本当に幸せな事なのかはわからないのだよ」


真デレラが呟くようにそう吐くのを黙って聞いていた魔法使いは、ベッドから立ち上がり、真デレラの肩にぽん、と手を乗せた。


「じゃあ、真デレラ。お前に"可能性"をあげよう」

「可能性…?」

「お前は現状維持が本当に幸せなのかどうかを決めかねているんだろう? それならば、一度"非日常"を経験してみるといい。僕はその手伝いをしよう」


魔法使いは、どこからか細い棒のような物を取り出し、真デレラに向けた。
すると、たちまち真デレラが来ていた服は綺麗なドレスに変わった。


「な…?!」

「綺麗だな、真デレラ」


魔法使いは満足げに目を細め、何が起きたかわからず立ち尽くす真デレラの手を取り、外へと導く。


「外に馬車を用意しておいた。お前はそれに乗って舞踏会に行くんだ。きっと何か得るものがあるはずだよ。ただ、今日はあくまでも"お試し"だ。その魔法は今日いっぱい、つまり深夜12時までしかもたない。だから12時の鐘が鳴り終わるまでに帰っておいで」




そうして、まだ呆然としている真デレラを乗せた馬車は、城へと走って行った。


「王子に会いさえすれば、あとはあのハイスペックが導いてくれるだろう」


魔法使いは呟いた。


「僕はお前が普段どれだけ努力しているかを知っている。お前には、絶対に幸せになってもらいたいんだよ、真デレラ」






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