V


「お城からの招待状…っスか?」


真デレラが持ってきた封筒を、黄瀬と紫原は不思議そうに見つめた。

青峰は真デレラの手からその封筒を奪い取ってさっと目を通した。


「あー…なんか、国中の女集めて舞踏会やるから今夜城に来いってさ」


それを聞いた途端に、姉達は顔を輝かせた。


「お城で舞踏会…夢だったんスよねぇ…!」

「おいしいもの、いっぱいあるかなー」


真デレラは、姉達の予想通りの反応にため息を吐きつつ、「そんなに楽しみなら、さっさと支度を始めるのだよ」と促す。


一方、何を着ようかと慌てて支度を始めた姉達とは逆に、お義母様は相変わらずの冷めた目をしていた。

舞踏会が開かれるのは夜だから、今夜はいつものようにゆっくり休むことはできないだろう。
いくらかわいい娘達が楽しみにしている事でも、いつも寝過ぎなくらいだらだらしているお義母様の身体には辛いのかもしれない。
まぁ、自業自得だが。


「支度はしておいてやる。お義母様は部屋に戻って寝ていると良いのだよ」と真デレラが言えば、そう言われるのがわかっていたかのように青峰は自分の部屋へと歩き出した。

しかし、完全に立ち去る前に、一言だけきっぱりと言い放った。


「シン、オマエは留守番な。オマエかわいいから人混みとか危ねぇし」


真デレラは目を見開いた。

元々楽しみな訳ではなかったが、根が真面目な真デレラは、他ならぬ王の命令なら聞くしかないと思っていたのだ。

それなのに、そんなくだらない理由で舞踏会に行けないとは。

というか訳がわからない。



青峰に突っ掛かろうとした真デレラを止めたのは、頭上から伸びてきた大きな手だった。


「まぁ、確かに真デレラちんは行かない方が良いかもねー」


紫原は真デレラの頭にぽん、と手を乗せ、優しく撫でた。
不器用に自分をなだめるその手に、真デレラが言いかけていた文句は飲み込まれていく。


「かわいい真デレラちんには俺達だけのものでいてほしいしー。いい子だから、ちゃんとお留守番しててねー?」


紫原の言葉に同意して真デレラに抱きついた黄瀬も、絶妙な上目遣いで「そうっス! かわいい真デレラっちは俺達だけ見てればいいんス。他の人がいるところなんか行く事ないっスよ!!」と訴える。


「おっ…俺は別にかわいくなどないのだよ!」


姉達が言ったことは随分と勝手ではあったが、それでも真デレラを納得させるには十分だった。



会ったことのない王よりも、自分を大事に思ってくれているコイツらの言うことを聞いてやりたい。
自分だって、何だかんだ言ってもコイツらが好きなのだから。

そう思った真デレラは、舞踏会には行かないと心に決めた。



こんなに愛されて、俺は幸せ者なのだよ。

真デレラは、心からそう思っていた。


ただ、その愛の故に、自分はこの家から出ることなくずっと暮らしていくのか、と思うと、少し苦しかった。






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