夢の続き(黒高)


高尾くんが会いに来た。
でも、ボクの姿を見つけた途端背後から抱きついてきた彼に少し違和感を感じた。

普段通りの彼なら、ボクの姿を見つけてもこんな風に軽々しく抱きついたりはしない。
見た目に反して自制心の強い彼が抱きついてくるのは、感情の高まりがどうしても抑えられなくなった時だけだ。

ボクは顔を横に向け彼の顔を覗き込んでみて、息を飲んだ。

彼は笑っていなかった。
笑顔の仮面を付けているだけ。
そして、その瞳から放たれる光さえも弱々しい。

いつも真っ直ぐ前を見据えて彼の強さを滲ませていたあの瞳は、どこに隠れてしまったのだろうか?


「何があったんですか?」


気が付くと、挨拶よりも先にそう口走っていた。


「"何か"じゃなくて"何が"だもんな…やっぱバレちゃったか」


高尾くんは苦笑して、呟くように話してくれた。

自分の目が見えなくなる夢を見た事。
そして、他の何よりもボクを見つけられなくなるのが怖いと思った事…。


「オレさ、自分の"鷹の目"は黒子を見つけるためにあるんだと思うんだ。黒子に会えて、嬉しかった。そっか、オレは黒子のために生まれたんだって思ってさ。…でも、目が見えなくなったら、もうオレは他の奴と同じかそれ以下だ。黒子の特別にはなれない。オマエを見つけてやれないんだよ…」

「高尾くん…」


正直、彼の想いはすごく嬉しかった。
でも、もっと伝えたい事がある。


「…大丈夫ですよ。とりあえず、実際に視力を失ったわけではないのですから。絶対逃がさないって言ってくれたでしょう?これからも目を逸らさないで、ずっとボクをこうして捕まえていてください。ボクも、高尾くんに見つけてもらえてすごく嬉しかったんです。自分の影がこんなに薄いのは高尾くんに見つけてもらうためなんだって、ボクは今でも思ってるんですよ。
…まぁ、でも、もし高尾くんの目が見えなくなったとしても、キミがボクを見失うなんてあり得ません」


そう言った瞬間、ボクを抱き締めている高尾くんの腕がぴくっと動いた。
ボクはその腕をほどき、彼と向き合った。
高尾くんは目を見開いていた。
いつもより潤んだその瞳は、やっといつもの輝きを取り戻してきたようだ。

ボクは、今度は自分から彼を抱き寄せた。


「高尾くん、ボクの声が聞こえますか?」

「…ああ…」

「ボクの体温や鼓動は感じますか?」

「…ああ。黒子って精神安定剤だよな。すげー落ち着く」

「目が見えないなら、こうして視覚以外でボクを捕らえれば良いんです。キミが不安なら、いつでもこうして抱き締めてあげます。ボクは、君の視界の広さだけを好きになった訳ではありませんよ?もちろん"鷹の目"も魅力の一つではありますが、キミの全てが大好きなんです。目が見えなくなっただけでキミがボクから離れるなんて、ボクが許しません」


だんだん顔が赤くなり、さっきとは違った意味でボクを見ようとしない彼はかわいくてしようがない。
ボクは思わず微笑み、少し背伸びをして、彼の耳元で自分の気持ちを素直に伝えた。


「愛してます、高尾くん」


さらに顔を赤く染める高尾くんに、ボクは笑みを深める。

ボクのかわいい高尾くん。
キミはそうしてボクの事だけを考えていれば良いんです。


逃がしませんよ…?





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