星に願いを(赤と黒)


 それがいつからだったか、テツヤには思い出せません。お母さんと「おやすみ」を交わした後、間接照明だけがぼんやりと灯る部屋、ふかふかの布団。ぎゅっと目をつむったはいいもののなかなか眠れない夜、諦めたテツヤが目を開けると、いつも決まって赤髪の少年がテツヤの顔を覗きこんでいました。

「また眠れずにいるのかい?」

 少年の問いにテツヤがこくんと頷くと、少年は、自分の後ろに潜ませていた大きな袋の中からひとつ、まるく光るボールのようなものを取り出し、テツヤの手のひらに乗せます。

「これを抱いて、もう一度目を閉じてごらん。……ほら、楽しい夢が見えてきたはずだよ。」

 夢を追いかけるうちに、いつのまにか、テツヤは眠ってしまいます。そして、少年も、少年がくれる不思議なボールも、朝テツヤが目を覚ます頃にはどこかに消えているのです。
 今度会えた時こそ「ありがとう」を言おう。寝ぼけた頭で、けれどしっかりと、テツヤは決意します。
 頭でふわふわと踊る寝癖は、夢の中の楽しさをそのまま伝えているようでした。



 ……



 それからどれくらい経ったでしょうか。テツヤは少し大きくなり、少年に「ありがとう」や「おやすみ」を言えるようになっていました。眠る前に少年とあいさつを交わすことにより、テツヤはそれまでよりもいっそう安心して眠りにつくことができました。
 少年と顔を合わせるのはいつも夜でした。お昼寝の時には現れません。寝つけない夜更けや夢見が悪い真夜中に、テツヤが布団の中で心細さを感じている時だけ、少年は姿を現しました。しかし、そんな時間だというのに、眠るのはいつもテツヤだけ。いつでも凛として眠そうな様子さえ見せない少年を、テツヤは不思議に思っていました。

「キミは ねむらないんですか。」

 テツヤの問いに、少年は優しく微笑みます。

「今、ここは真っ暗だね。」
「はい。」
「でも、地球のどこか遠いところでは、今は夜ではないんだよ。」
「そうなんですか?」
「うん。それと同じ。テツヤにとって今は眠る時間だけれど、僕にとっては違うんだ。」

 少年の声色はまるで子守唄のようで、テツヤの瞼も次第に重くなっていきます。再び意識がはっきりした時、もうカーテンの向こう側からは明るい陽の光が差し込んでいました。彼にとっての「眠る時間」はいつだろう。彼はどんな夢を見るんだろう。テツヤは少年のことをもっと知りたいと思いました。そこで、次に会った時、テツヤは尋ねてみたのです。

「キミのゆめをきかせてほしいです。」
「いいよ。どんな夢がいい?」
「そうではなくて……キミがみたゆめのはなしを。」

 テツヤがそう口にした瞬間、いつものように袋の中を探っていた少年の手がピタリと止まりました。暗い部屋の中ではっきりとは見えませんでしたが、テツヤは、少年が困った顔をしているような気がしました。

「……ごめん。覚えていないんだ。」

 静か、というよりは小さな声で、少年が答えました。

「じゃあ、またこんど。どんなゆめをみたか、おしえてください。」

 少年から言葉は返って来ませんでした。ただ、暗闇の中でもわかるすらりと白い腕を伸ばして、テツヤの掛布団をぽん、ぽん、とたたきました。

「おやすみなさい。」

 目をつむったテツヤの耳に少年の「おやすみ」が届きます。魔法の呪文のようなその言葉に背中を押され、テツヤは今日も夢の世界へと旅立っていきます。

「僕の仕事は夢を見せることだから。夢を見るのは、テツヤに任せるよ。」

 星の瞬きに似たそのひとり言は、誰に届くともなく、夜に紛れていきました。



 夢について、いつ聞いても少年は「覚えていない」と答えました。テツヤはいつしか、少年は夢の内容を覚えていないのではなく、あまりに怖い夢ばかり見るので自分には話せないのではないかと思うようになりました。テツヤが怖い夢を恐れていることを、少年は誰よりもよく知っていたからです。

「ボク、こわいゆめでも へいきですよ。」

 最近恒例となっていた夢についての会話を交わした後、その唐突な宣言に、少年は思わず吹き出します。

「テツヤ、かっこいいね。」

 ばかにされたと思い頬を膨らませたテツヤでしたが、少年のこんなに楽しそうな笑い声は初めて聞きます。少年が見せてくれた感情と、そのきっかけを自分が作れたことへの嬉しさは、ちっぽけな不機嫌なんて簡単に吹き消してしまいました。
 ところが、それに続く少年の言葉は、テツヤをさらに驚かせます。

「でも、それじゃあ、僕はもう用なしかな?」

 そう。少年は、テツヤに楽しい夢を見せるためにここに来るのです。楽しい夢を見なくてもテツヤが眠れるなら、少年がテツヤに会いに来る理由はありません。少年と会えなくなるなんて嫌です。
 まるく見開いた目の奥から何かが落ちてきそうで、テツヤは俯きました。なぜかはわかりません。ただなんとなく、少年にだけは、それを見られたくありませんでした。

「……ごめん。意地悪な言い方をしたね。」

 少年の「ごめん」はいつでも寂しい音をしていました。テツヤもそれを聞く度に寂しい気持ちになりました。
 やがて少年はいつものように袋の中からボールを取り出してテツヤに渡しました。もっと、ちゃんと話がしたいのに。そう願っても、ごめんの混ざった「おやすみ」のポンポンは、いつもと変わらずテツヤの瞼をとろんとさせます。
 その夜の夢の中で、テツヤは少年と一緒にボール遊びをしました。少年はつい先程テツヤを喜ばせたのと同じ様子で笑っていました。それは、とても楽しい夢でした。
 テツヤは思いました。少年もテツヤと同じ夢を見てくれたらどんなに楽しいだろう、と。
 また少年が訪れた時にテツヤがふたつのボールをねだったのは、そんな理由からでした。テツヤの要求に首を傾げながらも、少年は望み通りふたつのボールをテツヤに手渡します。テツヤはそれを大事そうに受け取ると、そのうちのひとつを膝の上に置いたまま、もうひとつを再び少年に差し出しました。

「これはキミがつかってください。」

 驚く少年の手のひらにまるいボールを置き、テツヤは誇らしげに目を細めました。そして、少年に何も言う隙を与えないまま布団に潜り込みます。

「おやすみなさい。」

 もらったボールをぎゅうっと抱えてしあわせそうに眠りにつくテツヤを、少年は黙って見つめました。彼の手の中に握りしめられたボールは、テツヤが抱きしめているものと同じように、優しく淡く光っています。少年には、それを再び袋の中に戻すことはできませんでした。

 少年はテツヤの願いを知っています。それを叶える術も知っていますし、不可能なことでもありません。ただ、それを実行してしまうには、テツヤはまだ幼い。そう思い、すべて話してしまいたくなる衝動を必死に抑えていたのです。



 さらに月日は流れ、テツヤはすっかり大きくなりました。もう怖い夢を見たからといって泣くことはありません。どうしても眠れない時には布団の中で目をつむり、名前も知らない彼を呼びます。すると、幼い頃と同じように、彼はテツヤの前に姿を現します。少年の姿はテツヤが幼い頃のままちっとも変わりません。少年と並んで立ったことがないためはっきりとはわかりませんが、どうやら少年とテツヤは、今では同じくらいの背丈になっているようです。身体の大きさは同じ、けれど自分よりもずっと大人っぽく見える少年を、テツヤはずっと変わらず慕っていました。
 その日あったこと、昨日見た夢のこと。テツヤは、少年が知らないであろうたくさんのことを生き生きと語ります。少年は時折相槌を打ちながらテツヤの話に耳を傾けます。テツヤが落ち込んでいる時には、以前と同じように布団の上からポン、ポン。かつて「おやすみ」の魔法だったそれは今では無言の慰めでもあり、テツヤはそれにただ心を安らげます。
 幼い頃は両手でなければとても抱えられなかったボール。それも今では片手で扱うことができるテツヤを、少年は「ボールを両腕で抱えて眠るテツヤはかわいかった」とからかうことがあります。しかし、「おやすみ」のあとしばらく意識を保てるようになったテツヤは、自分が目をつむった後も少年がテツヤを守るようにそばから離れずにいるのを知っています。
 少年とテツヤの関係は何も変わりません。不思議な少年との一定した距離はテツヤに安心感を与えるものであり、また少年が望んだことでもありました。しかしながら、成長して大きくなったテツヤのこころを満たすには、どこか物足りないものともなっていました。そしてそれと同じ寂しさが、少年のこころにもずっと住みついていたのです。


「キミの夢を聞かせてほしいです。」

 いつか幼かったある日と同じ問い掛け。ここ数年口に出したことのなかった疑問を言葉にしたのは、テツヤなりの決意表明でもありました。
 少年はテツヤを見つめました。ひたすら純粋だった瞳は、いつからこんなにまっすぐ自分を見つめるようになったのでしょう。簡単に傷付けてしまえそうなほどやわらかな肌に触れてみたいと、触れても大丈夫だと思えるようになったのはいつだったでしょうか。

「テツヤの夢を聞かせて。」

 うすく開いた少年の唇から零れる返答。テツヤにはそれが流れ星のように感じられました。長い年月を経た、静かな、儚い願い。やっと引き出せた「覚えていない」以外の答えに、テツヤははっきりと答えます。

「キミと同じ夢が見たいです。」



 その夜、少年とテツヤは初めて一緒に眠りました。眠る寸前、少年はいつもの大きな袋とは別の、ひもで腰に付けられた小さな袋の中からひとつのボールを取り出しました。

「これは特別なボールなんだ。これがあれば、僕も、テツヤと同じ夢を見ることができる。」

 少年は言いました。和紙に透かしたようにやわらかく灯るそのボールには見覚えがある気がしましたが、そのことをテツヤは黙っていました。
 少年はテツヤの手を握り、テツヤはその手を握り返します。そういえば直接触れるのはこれが初めてです。テツヤの緊張を読み取ったのか、少年は「手が汗ばんでる」と笑います。テツヤも「キミだって」と言い返します。その他愛ないやり取りが効いたのでしょう。感じていた緊張は気付かぬうちに解れていました。
 少年は空いているもう片方の手でテツヤの頭を撫でました。「子ども扱いしないでください」と尖らせた唇は少年の「うん。大きくなったね……」という感慨に打ち敗け、しまいには諦めたように満ち足りた弧を描きました。

「おやすみなさい。」
「おやすみ。よい夢を。」
「……キミも。」

 楽しい夢を。幼い頃、少年はそう言ってテツヤを夢へと送り出しました。少年の声を受け止める背中はいつも夢うつつ。いつでも会えるわけではない少年の姿を覚えていたくても、テツヤは彼に背を向けるしか術がありませんでした。少年と肩を並べること。少年と向き合うこと。それはもうずっと長い間、テツヤの夢だったのです。
 「いい夢」が「楽しい夢」ばかりとは限りません。少年と共有できるのならば、それがどんな夢であったとしても、自分にとっては「いい夢」だ。それは決して強がりなどではない、テツヤの本心でした。

 翌朝、目覚めたテツヤの隣に少年の姿はありませんでした。しかし、ずっと感じていた寂しさも、テツヤのこころから消えていました。寂しさのあった場所はほのかなあたたかさで埋まっていて、テツヤは少年のそばにいる時と似た安心感を抱いていました。
 その夜以降、少年はテツヤのもとに現れませんでした。



 ……



 義務教育を終え、専門の教育を受けて、テツヤは保育士になりました。かつて夢にうなされ泣いていた男の子が、今ではちいさな子どもたちを寝かしつけています。すやすやと眠る幼い子どもたち。その寝顔を眺めるたびに、テツヤは、自分もこうして見守られていた頃があったことを思い出します。少年はテツヤにすべてを語ってはくれませんでしたが、あの手のひらのあたたかさは他の何よりも雄弁でした。
 窓の外、精一杯に体を震わせる蝉の声は、まどろむ意識の中で子守唄に似た響きを感じさせます。ポン、ポン。いつか少年がしていたのと同じように、テツヤは子どもたちの布団で音のないリズムを刻みました。とっくに夢の中に旅立っている子どもたちは、その腕の下でただ眠っています。心地好く入り込んでくるそよ風に誘われてテツヤがうとうとし始めた時、

「黒子先生。」

 テツヤの先輩にあたる保育士さんが小声でテツヤの名前を呼び、手招きをしました。眠そうな顔を見られたかな、とわずかに焦りながらも、テツヤはその呼びかけに応じます。
 先輩の後を追って職員室へと足を踏み入れたテツヤは、新しく入所する男の子の存在を知らされました。



 初めて会ったはずの赤い髪の男の子に、テツヤは懐かしさを覚えました。

「黒子テツヤです。これからよろしくお願いします。」

 そう言ってしゃがみこんだテツヤの水色の瞳に、男の子の赤い瞳が映りました。明るい日差しをキラキラと反射する二つの色は、混ざり合うことなく、かつ何の違和感も放たず同じ場所に並んでいます。
 差し出したテツヤの手は、男の子の白くすべらかな手に触れました。小さな手のひらから伝わる体温は、夏のうだるような暑さとはまるっきり質の異なる、心地好いあたたかさをテツヤに与えました。
 あどけない顔立ちに不思議と似合う大人びた笑みには、純粋さと聡明さとが入り混じって見えます。若干のたどたどしさこそ残っているものの凛とした声色は、騒々しい蝉の声をかき分け、長い旅の終わりのように穏やかにテツヤの耳へと届きました。

「あかしせいじゅうろうです。よろしくおねがいします。」





 ……





 夜空を少しだけ賑わせる星の瞬き。それが星たちのおしゃべりであることに気付く人はあまり多くありません。大きな光、小さな光。赤いものも青いものもみな、地球で眠る子どもたちのあどけない寝顔を見ては、キラキラと楽しそうに笑います。
 そんなたくさんの星たちの中で、お揃いの赤い色をした大きな星と小さな星が、布団の中で枕を抱きかかえているひとりの男の子を見つめていました。

(あの子、また泣いているわ。かわいそうに。怖い夢を見たのね。)

 お母さん星が囁きます。ふたりの視線の先、儚げな色を持つ男の子は泣いていました。あたたかいはずの布団から覗く小さな手は震えています。隣の部屋で眠る家族に気を遣ってのことでしょう。その男の子は、喉元に込み上げる嗚咽を押さえ込みながら、必死に夜の静寂を守ろうとしていました。堪えきれない涙がポタリと落ちては枕に冷たい模様を作ります。こわいゆめはいや。ひとりはこわい。そんな願いが夜空のふたりのもとに飛んできて、蛍のように光っては消えてを繰り返しています。その弱々しい光にうっすらと当てられながら、少年星は不満げにちかちか光り、やるせない思いを閉じ込めた小声を響かせました。

(あの子は人一倍純粋で素直だから、夢から覚めても、夢の中で感じた怖さをなかなか忘れられないんです。感じたことをそのまま放っておけない、優しい子なんです……。
あの子には楽しい夢が似合います。僕は、あの子に相応しい、優しい夢を見せてあげたい。)

 小さいけれど確固とした意志で、少年星は光を放っています。お母さん星の穏やかな光に包まれるとそのとげとげしさは幾分和らいだようでしたが、それでも真っ直ぐな輝きは消えません。

(母さん。僕には、そのちからがあるんでしょう?)

 決意表明のような少年星の問い掛けに、お母さん星はかなしく微笑みます。

(征十郎。あなたは賢くて強い子ね。あなたならきっと、あの男の子にしあわせな夢を見せてあげられるわ。でもね、征十郎。)

 肩に手を添え、なだめるように、お母さん星は語りかけます。
 星はそれぞれ、ひとつの願いのために光るという役割を持っています。自分たちのもとへ届いた誰かの願いを拾い上げ、その願いが叶うよう祈ること。夢の終着点まで歩むその道筋が暗闇に呑まれて迷うことがないよう、願った人の足元を照らすこと。それが星としてのあるべき姿であり、一人前の星となった証でもあるのです。
 少年星は誰が見ても立派に育っていました。稀に見る賢さを持ちながらも決して驕ることなく礼儀正しさと性根の優しさとを忘れない彼に、周囲は「彼はどんな夢を叶えるのだろう」と期待していました。
 そんな息子の成長を誇らしく思う一方で、お母さん星は少年星もまだ幼いのだということを知っていました。少年星が叶えたいと言った願いをくだらないと思ったわけでも、それを叶えたいと願った少年星の判断が間違っていると思ったわけでもありません。むしろ、少年星が周囲の期待に流されることなく自分で『願い』を見つけてくれたことを嬉しく思っていました。ただ、少年星のこれから先、永く続くはずの未来を想うと、現時点で少年星が叶えるべきひとつの願いを決めてしまうのは、少し早いような気がしたのです。

(あの子はどんどん大きくなるわ。大きくなって、怖い夢を恐れずに、ひとりで眠れるようになるわ。そしてその時には、今とは違う願いを持つようになるの。……あなたは、その願いを叶えてあげなさい。きっと、その願いは、あの子ひとりでは叶えられない、あなたがいることで初めて叶えられる願いだから。
あの子が怖い夢を見ないように、あなたがその役に立てるように。私に、そう祈らせてちょうだい。)

 それは、自力で立つことを促すと同時に少年星を支える、母としての情愛でした。そして、自分にとって少年星と少年星が選んだ男の子との願いを叶える以上のしあわせはない、と確信した上での嘆願でもありました。
 ふたりと男の子との間の夜空を、誰かの願いを乗せたひとつの星が通り抜けていきます。願いが叶った時、星は命がけでその人のもとへ赴き、実現した夢を自身の輝きと共に届けるのです。星たちは口々に「おめでとう」と囁きます。それは星の生涯で一番しあわせな瞬間でした。

(ありがとうございます、母さん。)

 本来の落ち着きを取り戻した少年星は、お母さん星の言葉を大切に噛みしめ、胸にしまいました。お母さん星が願ってくれるなら、後ろ盾としてそんなに心強いことはありません。
 お母さん星からの応援を背に、少年星は、泣いている男の子のもとへと急ぎました。



「眠れずにいるのかい?」

 男の子を怖がらせないよう、少年星は男の子と同じ姿形になりました。背負った大きな袋いっぱいの楽しい夢の欠片たちは、男の子がもう泣かずに済むようにという母の祈りを受けてあたたかく優しい光を放っています。
 問いかけに対して素直に頷いた男の子に、少年はひとつの夢の欠片を渡します。

「これを抱いて、もう一度目を閉じてごらん。……ほら、楽しい夢が見えてきたはずだよ。」

 夢を追いかけ眠りにつく男の子の様子に、少年は安堵のため息を吐きました。泣き腫らした瞼が痛々しそうでしたが、もともと仮に人の姿を取っているだけの少年には、星としての光を完全に抑えきることができません。もし直に触れてしまえば、男の子は少年の眩しさに驚いて目覚めてしまうかもしれない。男の子のせっかくの安眠を邪魔したくはありません。散々悩んだ末に、頭を撫でることが叶わない代わりに、少年は横向きで寝ている男の子の丸まった背中を掛布団越しにさすりました。そして、男の子の強張っていた口もとが弛んでいくのを見守り、朝が来る前に夜空へと帰りました。
 出迎えたお母さん星は、少年星が去ったあと男の子が楽しそうに寝返りをうっていたのを見たようです。「翌朝は寝癖がすごそうだ」と、ふたりは笑みを零しました。


 ……その後の三人が気になりますか? では、少しだけ。
 お母さん星の祈りの効果もあり、少年星も男の子もすくすく成長します。ありがとう。おやすみ。会話を繰り返しながら次第に歩み寄っていったふたりはお互いのことが大好きになり、やがて、同じ願いを持つようになるのです。



2015.7.15





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