緑間の受難(高→緑←黒)
「絶対オレのだっ!」
「いえ、ボクのです」
バスケ部としては決して身長が高くない二人が言い争っている。
そもそも初めからお互いの第一印象はあまり良くなかったようだが、今回の争いはいつものような水面下のものではなく、見るからに激しい。
二人それぞれの事を他の人よりもよく知っている緑間はため息をつき、その珍しい争いに耳を傾けた。
「だってさー、あの神経質な真ちゃんがオレにはこの呼び方を許してくれてるんだぜ? オレ超特別じゃん!」
「それを言うなら、あのツンデレな緑間君は、ボクの事を苦手だと言ったんですよ。それって遠回しな告白じゃないですか」
…おかしい。
いくら鈍感な緑間でもはっきりわかる。
自分の耳がおかしいのでなければ、この喧嘩の争点は間違いなく自分だ。
二人に関わらないよう距離を置いている周囲にまではっきりと聞こえているその争いを止めるため、緑間は二人に近付いた。
そして、決してまともな答えは期待できない、けれどこの状況では当然の質問をした。
「お前たち…何を言い争っている?」
すると二人は自分たちの話題の中心人物が来た事に気付き、緑間の言葉を聞き終えないうちに詰め寄ってきた。
「ちょうど良かった真ちゃん! 黒子にはっきり言ってやってよ、真ちゃんはオレのなんだって!」
「緑間君、バカ尾君にはストレートに言わないと伝わりませんよ。キミはボクのものだと教えてやってください」
すがり付くように捲し立てる二人の真剣な表情に、意に反して鼓動が速くなるのを感じた。
しかしそれを表に出すとさらに面倒な事になるのは目に見えている。
「二人とも落ち着くのだよ。そもそもいつ俺がお前たちのものになったのだ」
そう言うと、二人はきょとんとして緑間を見上げた。
不意に向けられたその視線に今度は顔が火照ってくる。
これはまずい。
緑間はとっさに二人から顔を反らし、眼鏡を掛け直すフリをして手で顔を覆った。
すると、二人ははっとした顔でしばらく互いに見つめ合ったあと、緑間に向き直りこう言った。
「「この話はひとまず保留で」」
絶対に何か言われると覚悟していた緑間は一瞬躊躇ったが、この話を終わりにしてくれるならそれは願ってもない事だと思い直し、「あ、ああ…」と曖昧な返事をした。
緑間は、この話はこれで終わったのだと思っていた。
しかし、二人はあくまで『保留』と言ったのだ。
…
その日の夜、緑間の携帯に2通のメールが届いた。
送り主は言うまでもなく、高尾と黒子。
―――
差出人:高尾
件名:ごめん
本文:
真ちゃんごめん!! 黒子相手についムキになっちまった
![](//img.mobilerz.net/img/i/63915.gif)
ほんとごめんな(>人<)
![](//img.mobilerz.net/img/i/63915.gif)
オレ真ちゃん大好きだからさ、黒子が真ちゃんのこと知った風に話してんのが耐えられなくて…。恥ずかしい思いさせちゃったな。
でも、もう他のヤツの前であんな顔すんなよ。あんなかわいい顔してたら襲われちゃうぜ?
まぁ、そんなことしたらオレが黙っちゃいないけど♪
真ちゃんはオレが守ってやるから。これからもずっと側にいてくれよ。
じゃあ、また明日学校でな。
愛してるぜ、オレのエース様(^3^)/-☆
―――
―――
差出人:黒子
件名:今日はすみませんでした。
本文:
緑間君、今日はいきなりあんな事を言ってすみませんでした。
緑間君は照れ屋さんですし、人前での告白と言うのは抵抗がありますよね。
ボクは緑間君が自分のテディベアにテツヤという名前を付けているのを知っていたのでもう告白を受けたつもりでいたのですが、まだ直接言葉で聞いた訳ではありませんでしたね。
それによく考えたら、緑間君のあんなかわいい顔をわざわざ他の人に見せてやるのも惜しいです。
なので、今度二人きりで会いましょう。
告白はその時にじっくり聞いてあげます。
いつ、どこで会いましょうか?
希望があったら教えてください。
キミがどんな言葉で愛を伝えてくれるのか、今から楽しみです。
ボクの緑間君。愛してますよ。心から。
それでは、また。
―――
緑間の思考は停止した。
ただ、その長い睫毛が影を落とす頬だけが、どんどん朱に染まっていく。
…もう駄目だ。何も考えられん。
布団を頭から被り、緑間は寝る事にした。
彼は今夜どんな夢を見るのだろう。
そして明日は…。