産後の日(赤黒)


テツヤとの関係を父に認めてもらうにあたり、『赤司家を途絶えさせない事』、これが絶対条件として提示された。「そんな無茶な要求をされるくらいなら父になど認めてもらわなくていい」。僕のその説得にテツヤは耳を貸さなかった。自分達の幸せは周りから祝福されるべきだ。周りに迷惑ばかり掛け続けていた自分達だからこそ、その結果が周りの人にも納得できるものであるように。


「ボク達は間違った事はしていません。」


その主張は、僕にとって得心のいくものだった。

そこから二人で話し合った。赤司家を途絶えさせない、つまり子供を得る手段として真っ先に浮かんだのは養子を迎える事だった。しかし現在の日本の制度では同性同士の結婚が認められていない。養子を貰うにしても、その場合『どちらかの片方』の養子という扱いになる。『二人の』子供にはならないのだ。それでは意味がない。
代理母による出産も同じ理由で嫌だった。僕達が欲しいのは、僕達二人の子供なのだ。


「テツヤ。…賭けに出てみようか。」


僕を信じてみてくれるか?
その問い掛けにテツヤは頷き、僕より少し小さな手で僕の手を包んでくれた。





 …





病院の廊下に響き渡る沈黙。どこからか届く足音が辛うじて僕をその場所に引き留め、秒針代わりに時を告げていた。


あの日から始まった賭け。それは『テツヤが僕の子供を産む』という、父が出した条件以上に不可能と思われる選択だった。けれどテツヤが信じてくれた。僕が不可能に勝利するための理由としてそれ以外に必要なものなど何もなかった。

時間がかかった。僕達はもう若くはない。それでもやはりテツヤは僕を信じ、身を委ねてくれている。生まれた時には何もなかった場所に不安定な子宮を抱え、僕達の命を宿している。
日々膨らんでいくテツヤの腹を撫でる度に育っていったのは、決して期待だけではなかった。失敗例がない代わりに成功例もない男性の出産。しかも、女性のそれが当てはまるかどうかは判らないが、テツヤは妊娠適期も過ぎている。
信じられるのは自分とテツヤの力だけだった。


若い頃から人より体力のなかったテツヤは今、どれだけの負担に耐えているのだろう。無機質な壁が想像を掻き立て、目を開けていられない。頭の中で、あの我慢強いテツヤが、今まで聞いた事のない声で叫ぶ。耳を塞ぎたくなる。

どうか、無事で。それだけを、祈る事だけを繰り返した。







泣き叫ぶ声が聞こえた。





 …





「真っ赤な顔。」


暖かい空気が湿った頬を撫でていく。涼しげに汗を滴らせる水色の隣で眠るのは淡い紫色。赤と水色、僕とテツヤ。二人の色が一つになって生まれてきた、愛しい一人。


「そんな顔で強がって…"お父さん"は仕方のない人ですね。」


細い身体を怠そうに傾けながら、すっかり母親の顔をしたテツヤが話し掛ける。目を閉じたままの赤ん坊は、触るのが躊躇われるほど小さな手を、きゅ、と握り直した。


「テツヤ。ありがとう、本当に…。お疲れさま。」

「赤司くん、」


僕の言葉を遮り、テツヤは微笑む。


「まだ、これから始まるんですよ。」


僕より少し小さなテツヤの手を包む。温かいその手から伝わるテツヤの鼓動。それに安心して、側で眠る赤ん坊の閉ざされた手にも、指でそうっと触れてみた。







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