夢(高黒)
夢を、見た。
急に目が見えなくなる夢。
オレは妙に落ち着いていて、もうバスケはできないなーとか、真ちゃんどんな顔してんのかなーとか考えていて。
ふと、黒子の顔が頭に浮かんだ。
そうだ。
オレは鷹の目を持っていたから、あの影の薄い黒子を当たり前のように見付けてきた。
儚げで今にも消えそうな黒子が本当に消えてしまうのが怖くて、その姿をこの目で追い続けてきた。
実際にはそんな事は有り得ないとわかっていても、必死に捕らえてきたんだ。
黒子が消えてしまう事よりもオレの目が見えなくなる事の方がずっと現実的だというのに。
もう何も映さない目から涙が零れた。
…
夢から覚め、ついさっきまで自分の顔が埋もれていた枕が濡れているのを見た高尾は苦笑した。
「ははっ…シャレになんねー…」
そっと自分の目に触れてみる。
…ちゃんと、見えている。
たったそれだけの事にこんなに安心した事なんて、今までなかった。
もし、本当にオレの目が見えなくなったら、誰かアイツを見付けてくれるだろうか?アイツは、オレが見付けてくれたのが嬉しかったって言ってたんだ。
「…悲しませるのは、嫌だなー…」
その無表情なようで誰より情熱的な瞳の奥に見えるのは希望だけでいい。
絶望なんて、二度と味わわせてはいけないんだ。
(つーか、目が見えないって事は、あの黒子の目の色も見えなくなるんだな)
あの空色があるだけで、世界はこんなにも輝くのに。
他のものが何も見えなくても、黒子が変わらずこの目に映ってくれるなら。
それならば、オレは笑っていられるよ。
「オマエだけは見えるんだよ。言ったろ、絶対逃がさないって」なんて軽口を叩いて。
そして、黒子の呆れたような、でもどこかほっとしたような笑顔を見ることさえできれば。
それだけで、オレは自分を世界一幸せな奴だと思えるよ。
「…なんてな。朝から暗すぎるか」
今日は…こんな精神状態ではとても会えない。
きっとあの空色が目に入っただけで涙が止まらないだろうから。
でも、せめていつもと同じ笑顔の仮面を被れるようになったら、アイツに会いに行こう。
柔らかな髪も、すべらかな肌も、深い瞳も、優しく微笑む口元も、ボールを操るには少し小さな手も、練習中に流れる汗さえも、すべてこの目に焼きつけたい。
それを覚えているためじゃなく、ただ幸せを感じるために。
「大好きだよ…」