2号擬人化X(紫原と2号)

紫原は、動物が大好きだ。

自分にない小ささに、ひとつひとつの仕草の愛くるしさ、加えてふわふわな手触り。
特に、子犬や子猫のたどたどしいポテポテ歩きは、眺めているだけで幸せな気分になれる。


だから、誠凛では子犬を飼っているらしい、という情報を耳にした時から、紫原はその犬に会うのをそれはそれは楽しみにしていたのだ。




 …




「はああぁ…」


もう何度目かわからない大きなため息を漏らし、紫原は隣を見た。

さらさらした水色の髪に、運動部としては些か華奢な白い手足。

かつてチームメイトだった黒子テツヤに良く似た、しかし彼よりも少しだけ大きいその少年が、自分が会えるのを心待ちにしていた『テツヤ2号』だと知った瞬間。
その落胆は、相当のものだった。


高校で寮生活を始めてからというもの、大好きな動物と触れ合う機会が滅多になくなってしまった。
東京の実家に帰ればペットには会えるが、部活が忙しく中々帰省できない上に、やっとの思いで帰っても一家全員が動物好きなため競争率が高く、思う存分愛でる事は叶わない。


正直、今の姿の2号も自分よりはずっと小さいし、人間としてはどことなくぎこちない、時折垣間見せる犬らしい動作もかわいいとは思う。
しかし、動物特有のあのふわふわ感は、この人間の姿の2号にはないのだ。


(思いっきりぎゅーってして、もふもふしたかったのになぁー…)


再びちらっと横を見る。
すると、同じく自分を見ていたらしい大きな瞳と目が合った。

2号は慌てて目を逸らし、心底申し訳なさそうに「すみません」と呟く。


「むらさきばらくんは、犬のぼくと遊びたかったんですよね…」


アララ、バレてる。

今さら取り繕っても仕方がない。そう考えて「うん、まあねー」と返してみたのだが、2号はさらに落ち込んだ様子で俯いてしまった。

しょんぼりと下を向く2号に、紫原は自然と手を伸ばしていた。

頭上に迫る大きな手に、気配を察した2号は一瞬だけ警戒を強める。
しかし、そんな警戒などまるで無意味だとでも言うように無遠慮に頭に置かれた手は、そのごつごつした指からはとても想像できないような優しい手付きで2号の髪を撫で付けた。


「んー…。なんか、ちょうどいい大きさかも」


紫原の悩みの一つ。
それは、小さな動物への力加減が良くわからない、という事だった。

ふわふわの毛を撫でたい。
でも自分の大きくて力の強い手は、かわいい動物たちに安心感よりも恐怖心を与えてしまう。

その点、人の姿の2号相手なら、力加減も何となくわかる。
それに加えて、この、安心しきった表情。

それは、紫原を満足させるには十分すぎる状況だった。



「2号、かわいいでしょう?」


二人の様子を少し離れた所から窺っていた"1号"が、紫原に話し掛ける。


「そろそろおやつの時間ですよ。紫原くん、お菓子、持ってますよね?」

「うん、持ってるよー」

「それ、2号にも少し分けてあげてください」

「でも…犬に人間のお菓子をあげるのって、良くないんじゃないの?」

「一般的にはそうですね」


黒子はそう認めつつ、でも、と付け足す。


「今の2号は、体の造りは人間ですから。人間の食べ物をあげても問題ありません」


そういうものなのだろうか。
疑問に思いはしたが、黒子の言う事が間違っているとも思えなかった。

2号の方ももうすっかりそれに慣れてしまっているようで、紫原がお菓子をくれるのをキラキラした目で待っている。

その"待て"のような状況に諦めをつけた紫原は、持参していたまいう棒の袋を開け、2号の口元へと差し出した。


「はい、あーん」


紫原から差し出されたお菓子にためらいなくかじりついた2号は、さく、さく、と小気味良い音をさせながら夢中でそれを味わっている。
こんなに幸せそうにお菓子を食べる者は見た事がない。
そう思えるほどの表情を目の当たりにして、紫原はまた一つ、動物と接するに当たりもどかしく思っていた部分がすっきりしていくのを感じた。

それは、好きなものを共有できない事。
お菓子でも料理でも、動物が食べる事のできる物は人間に比べて極端に少ない。
大切に思うからこそ、自分がどんなにおいしいと思っても、それを教える事ができない。
それが仕方ない事だと解ってはいても、紫原はどうしても寂しかったのだ。

それが、今の2号となら共有できる。
同じものを食べ、「おいしいね」と言い合える。


「おいしかったです…! ご馳走さまでした!」


食べ終えた2号が向ける純粋な笑顔に言い様のない満足感を覚えて、紫原は2号をぎゅう、と抱き締めた。
突然の事に戸惑い慌てる2号にくすりと笑い掛け、「さっきはごめんね。2号大好きだよー」と告げると、2号は真っ赤に染まった顔でへらっと笑い「ぼくも、です」と呟いてくれた。

服の裾をきゅっと握る手も何もかもがかわいらしく、愛しい。


こんなにかわいいなら、ふわふわじゃなくても構わない。


紫原はその日、思う存分"ぎゅー"を堪能したのだった。








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