2号擬人化W(黄瀬と2号)
「そもそも、きせくんは犬なんですか?」
突然そんな事を真顔で言われ、さすがの黄瀬も戸惑っているようだ。
というか『そもそも』って何スか。
その無言の問いかけに「あ、すみません。くろこが言ってたんです」と付け足し、2号は首をかしげる。
「くろこはきせくんの事を"駄犬"と言っていたのですが…きせくん、ちゃんとかっこいいですよね。全然ダメなんかじゃないのに、どうして駄犬なんでしょう…?」
大きな目が、下からじぃっと黄瀬を見上げる。
吸い込まれそうなその水色に心臓が跳ねるのを感じて、黄瀬は慌てて視線を2号から遠ざけた。
それをどう解釈したのか、2号は変わらず黄瀬を見上げたまま小さく息を吐き、「人間の感覚はまだよくわかりません」と眉根を寄せる。
「きせくんが整った顔をしているというのも、ぼくにはよくわからないんですよ。人間の美的感覚は難しいです」
へぇ、そうなんスか。
そう軽く流そうとした黄瀬は、ふと違和感に首をひねった。
「2号、さっき俺の事かっこいいって言ってたよね?あれは何の事だったんスか?」
2号はきょとんとして、再び首をかしげる。
「きせくんの纏っている雰囲気と言いますか…姿勢とか、頑張っている姿とか、ですかね」
その返答は、黄瀬にとっては予想外のものだったらしい。
なるほど、そっちッスか、と妙にしみじみとした様子で呟く黄瀬に、2号はもしかして、と問う。
「もしかして、顔の事だと思ってたんですか?…ナルシストですか」
「う……だ、だって、そっちの方が言われ慣れてるから!」
真っ赤になって慌てて誤魔化そうとする黄瀬の様子にくす、と笑みを溢し、2号は黄瀬の頭へと手を伸ばした。
さらりと指通りの良い金色は、撫で付ける度に日に透けてキラキラと輝く。
水面のように揺れる瞳にその光を映しながら、2号は口を開く。
「今度、一緒に駅前のペットショップに行きましょう。ぼくの好みはそこで説明します」
「…それ、デートのお誘いッスか?」
「はい、そのつもりです」
たったそれだけの約束で一気に顔を弛ませる黄瀬に、2号は穏やかに微笑んだ。
「真っ赤な顔もかわいいですが、やっぱりぼくは笑顔のきせくんが一番好きですよ」
(まったく、どっちが犬なんだか…)