求めるもの(木赤)


「何故お前がここにいるんだ」

「ん?だって和菓子といえば京都だろ?」


美味しい和菓子を買うため。
そんなくだらない理由で東京から遥々やって来た木吉は、僕の呆れ顔など全く気にしない様子でニコニコしている。


「京都は全然詳しくないからなぁ。赤司、案内してくれよ」


そうして、半ば強制的な形で、良く知りもしない男と二人、和菓子巡りをする羽目になった。


高校生特有のノリの良さがある訳でもない男二人が食べ歩きをしていて、しかも片方は190cmを超える長身。
端から見ればかなり異質な光景だろう。

しかし、隣の男が醸し出すおおらかな雰囲気が、その違和感をごく自然なものへと変えてしまっている。

 それに、「これ面白いな。お、あれも旨そうだ」などとひたすら楽しそうな木吉の隣を歩くのは、想像していたよりも退屈には感じなかった。




「赤司はつぶあんとこしあん、どっちが好きなんだ?」

「僕はこしあんだな。つぶあんも嫌いではないが、豆の皮を取り除く手間を省いた結果出来た手抜き品のように思えて、あまり好感は持てない」

「なるほどなぁ。ちなみに、俺はどっちも好きだぞ」

「そうか。それは便利だな」


くだらないと言ってしまえばそれまでの、他愛ない会話。
ゆっくりとした歩調と、ゆったり流れる空気。

そういえば、京都に来てからこんなにのんびりと過ごした事はなかったかもしれない。

そんな事をふと思った。





「ごめんな、折角の休みに付き合わせちまって」


別れ際、既に薄暗くなった空の下を日中と変わらない速度で歩きながら、木吉は自嘲気味に笑った。

二人で歩いた街はすっかり景色を変え、昼間の騒々しさに取って代わった人工的な光がぽつりぽつりと辺りを染め始めている。


「実は和菓子を買いに来たってのは言い訳で…本当は、赤司に会いに来たんだ」


なんか小っ恥ずかしくてな。つい他の理由を考えちまった。

そう言いながら、照れ隠しのように僕の頭の上に置かれた大きな手のひら。

子供扱いされているとも受け取れる状況だったが、そこから伝わってくる温かさが何故だか妙に心地好くて、腹は立たなかった。


「楽しかったか?」


そう僕が問えば、「ああ。赤司のおかげでな」と、何もかもを包み込んでしまいそうな笑顔を見せる。


「僕も今日は中々に楽しませてもらった。また来ると良いよ、鉄平。その時はまた案内してやる」



一日一緒に過ごしてみて気付いた事。
それは、この男の隣も悪くないという事だ。


一緒にいてここまで自然にくつろげる相手は、今までいなかった。

この男が求めるものが、完璧で絶対的な存在である"赤司征十郎"ではなく、隣を歩くただの"僕"である事、それが新鮮だった。




僕からの切り返しが意外だったのか、一瞬だけ丸くなった目は、すぐに元の穏やかさを取り戻した。


「ありがとう。よろしくな」



素直な、心の底から嬉しそうな笑み。

その笑顔に、飄々として掴み所がないこの男の"心"を確かに捕らえたという手応えを感じ、少しだけ満たされたような、不思議な気分になった。








QLOOKアクセス解析



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -