夏至(赤黒)


『今日は夏至だそうです』


電話越しの声は淡々として、上手く感情を読み取る事ができない。
まるで今日の天気のようだとぼうっと考えていると、通話相手であるテツヤは更に言葉を続ける。


『せっかくの一年で一番昼が長い日に曇りというのは、少しもったいない気がしませんか』

「…ああ、言われてみればそうかもしれないね」


ぼつりと言い放ったそれは気のない返事に聞こえたらしく、次に聞こえた声は少し不機嫌だった。


『日没って、その瞬間に真っ暗になる訳ではないんですね。日が沈んでからもしばらくは明るかったです。今はもう真っ暗ですが…。京都はどうですか?』

「こっちももう真っ暗だよ。テツヤが見ているのと同じだ」


空を見るため窓を開ける。
少し湿った、この時期にしてはひんやりとした風が入ってきて、滞っていた部屋の空気を静かに動かしていく。


『そうですか…』


同じ、というのが嬉しかったらしい。
テツヤが返した声色からは既に先程の不機嫌さは感じられず、涼やかに耳に響いた。


『星、見えませんね』

「そうだな」

『雨が降り始めました』

「その雨はすぐに止むよ。こっちはもう止んだからね」

『…赤司くん、雨に打たれました?』

「ああ、少し、ね」

『じゃあボクも、』

「テツヤは駄目だよ。風邪を引いてしまう」

『だって』


きっと口を尖らせているのだろう。
くぐもったその声から容易に想像できるその表情が堪らなく愛しい。


「風邪なんか引いたら電話もできないだろう?テツヤの声が聞こえなくなるのは、寂しいよ」


目を閉じ、聞こえる音だけに集中する。

微かな雨音と、呆れたような、でも満ち足りたような、小さなため息。

離れた空間、異なる状況で、唯一共有できる音だけを耳に刻み込む。


『雨、小降りになってきました』


目を開けてもう一度空を見上げると、曇り空の隙間からうっすらと月が覗いていた。
小降りになった雨が止んで少し経てば、東京でも同じ月が見えるだろう。


「テツヤ、まだ起きていられるか?…もう少し、話していたい」


同じ時間に、この同じ月を見れば、全く同じとまでは行かずとも、きっと良く似た感情を抱けるはずだ。

今、物理的に触れる事は叶わない。
だからせめて、気持ちだけは少しでも近付けるように。


徐々に光を増していく月明かりが辺りを優しく照らす中、テツヤの『はい』という短い言葉が僕の中に響き渡った。








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