2号擬人化U(青峰と2号)
2号が人間になって、これで1ヶ月になるらしい。
でも、同じ都内とはいえ他校の、しかも犬との接点など、滅多にあるものではない。
そういう訳で、練習試合で誠凛を訪れた俺は、テツが二人いる事に驚いた。
「あおみねくん!」
そのうち一人のテツが、軽やかに駆け寄ってくる。
飛び付く勢いで俺の目の前に立ったテツは、両腕で大事そうに抱えていたバスケットボールを俺に突き出し、言った。
「バスケ、しましょう!」
…
さすが犬なだけあり、2号の体力や反射神経には目を見張るものがある。
いくら誠凛との練習試合の後で疲れているとはいえ、俺のスピードに付いて来れるヤツはなかなかいないだろう。
ドリブルなどボールを操る技術にしても、たった1ヶ月でこれだけできるようになれば上出来だ。
それに、この真剣な目。
俺にどんなに差を付けられても決して諦めない、かつての相棒そっくりなその目は、バスケをする上で非常に大切なものだと思う。
(まぁ、それでも俺に勝てる訳じゃねぇけど…な)
軽い調子で2号からボールを奪い、そのまま走り抜こうとしたその時だった。
それまでとは全く違う空気を感じ、背筋に緊張が走る。
流れ出るその空気の源である2号の目を見て、思わず息を飲む。
その目は、先程までの無表情ながら人間味溢れる目付きではなく、獲物を狩る獣の目へと変わっていた。
そこで初めて、俺は思い出した。
そういえば、コイツ人間じゃなかったんだ、と。
一瞬動きを止めてしまった俺から再びボールを奪い取った2号は、そのままゴールにボールを叩き込んだ。
ネットをくぐり落ちたボールがタン、タンと弾む。
それにつられるように、2号の口がゆっくりと開く。
「……あおみねくんからゴール奪いましたぁーっ!」
嬉しさのあまり走り回るその姿からはもう先程のような獰猛さは微塵も感じられず、俺はただ呆然としてしまった。
「やられましたね、青峰くん」
「うぉっ?! お前いつの間に…!」
相変わらず影の薄い"元相棒"は、瞳の奥に父親のような暖かみを滲ませて2号を見遣った。
視線の先では、無邪気な水色が他の部員たちに囲まれて飛び跳ねている。
「2号、頑張ったんですよ。『ぼくも、あおみねくんがまたバスケを楽しめるようにお手伝いするんです』って」
「…あ?」
2号が、何だって?
怪訝な表現の俺に小さく笑い、テツはさらに言葉を続けた。
「青峰くんの楽しそうな顔が見たいからって、毎日頑張って練習してたんです。今日の練習試合も、出してあげたかったくらいなんですよ」
楽しかったでしょう?
そう尋ねられ、俺は素直に頷いた。
「…テツ」
「?」
「2号の足のサイズ教えてくれ。アイツのバッシュ買ってやるから」
それ使って練習して、もっと強くなって、もっと楽しませろよ。
俺も、もっと強くなって待ってっから。