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「一通りの設定は完了しています。他に、何かご希望やご質問はありますか。」 深緑色の髪をわずかに揺らし、開発者である博士・緑間は尋ねた。彼の隣には、端正な顔付きをした、鮮やかな赤い髪の少年が立っている。その瞳が未だ閉ざされたままなのは今がスリープ状態だからで、"設定完了"が確認でき次第開くのだと、先程説明があった。 その燃えるような緋色に呆然と見とれたまま口を閉ざしている黒子を横目で見つつ、付き添っていた虹村は緑間へと口を開いた。 「説明も受けましたし、今は特にありません。生活していく上で困った事は、後からでもサポートしてもらえるんですよね?」 「はい、勿論。」 「それなら大丈夫です。」 「では、これで設定を完了します。」 緑間はそう告げると、手元にあったパソコンのエンターキーを押した。少年の瞼がゆっくりと開いていく。髪よりももっと激しい、深紅の瞳。強い意志を感じるその眼から発せられる光に、黒子は瞬時に射抜かれた。 (これは、本当に、ロボットの瞳…?) 生きているとしか思えない。瞬きをする彼の赤の中に自分の水色が映った途端、黒子の心臓はどきりと跳ねた。 「おい黒子、いつまでぼーっとしてんだ。行くぞ。」 「え、あ…はい。緑間博士、ありがとうございました。」 「いえ、礼には及びません。」 「それでは、失礼します。」 パタン。 赤い髪の少年を連れ、虹村と黒子は部屋を出て行った。見送った緑間は小さく溜め息を吐き、近くの椅子へ腰掛ける。普段研究室に籠りっ放しの彼が生身の人間と接する機会は決して多くない。それに加え、今日の来客はとりわけ特別な意味を持っていた。 今日彼らが連れ帰った赤い髪の少年―赤司征十郎―は、世界初の"感情"を持つロボットだった。人と同じように物を考え、感じ、求める。何代もの研究データを引き継ぎやっと開発まで漕ぎ着けたそのロボットを、緑間は"愛のロボット"と呼んだ。 人が求めて止まない、けれど壊れやすく脆い"愛"という感情。ロボットにその感情を持たせる事で、その繊細な感情を、絶対的で永遠のものへと変える事ができたのだ。 しかし、これまで誰も越えた事のないその発明に異を唱える人物も多くいた。今まで人とロボットとの間にくっきりと引かれていた境界線が踏み越えられる事で、人間の存在意義が危ぶまれるのではないか、と言うのだ。 その意見に関しては、各自の倫理の問題だと緑間は思っていた。いつの時代でも新しい事象にその問題は付きものだ。そのため緑間は、その意見を特に否定する気は毛頭ない。それでも、自分が間違っているとも到底思えない。決してこの発明を邪魔されたくはない。 そこで行われたのが、今回のサンプルによる実験だった。 商品として売り出す前に、信頼がおけると判断された人間に"愛のロボット"との生活を実際に経験してもらい、その反応を見る。開発者たちの間に、その実験を行う事に関して異議を唱える者はいなかった。 被験者として選ばれた黒子という少年は、まさにうってつけの人材だった。 年齢が赤司と近く、無表情ではあるが誰よりも人間らしいと周囲が口を揃えて評価する彼は、何か特出した才能を持っていたり容姿が優れている訳ではないのに、人望だけはずば抜けて厚かった。彼の周囲の人間は皆、彼が信頼を裏切る事はないと確信している。 また、幼い頃に両親を事故で亡くし親戚の虹村家に引き取られた彼は昔、常に言いようのない寂しさを漂わせる少年だったのだという。成長してポーカーフェイスを身に着けた今でもふとした瞬間に表情を翳らせる黒子に、周囲は胸を痛めていた。 壊れない永遠の愛。それを誰よりも切に望んでいたのが、その黒子という少年だったのだ。 この実験が上手く行くといい。 緑間は、開発者としても、そして黒子の事情を知る一人の人間としても、そう願っていた。
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