後ろからキャッチボールを楽しむ少女たちの声が聞こえる、晴れた夏の日。
学生時代の頃をヒロシに聞かれ、友達が一人もいなかった事を半田は素直に答えた。
「マジで!?一人も?」
信じられないと言ったヒロシの言葉に、半田は顔色一つ変えることなく、全て肯定の言葉で返し、頑なに友達がいなかったと強調した。
例え、半田の学生時代からの旧友である川藤が、草むらの茂みでショックのあまり震えているのを目の前にしても、あれはだだの知り合いだと言うだけで何故か絶対に友人とは認めない。
それには、さすがのヒロシも同情心が芽生えたのか、口を挟まずにはいられなかった。
「先生、さすがに川藤さんかわいそうだろ……前にマイフレンドって言ってたのは嘘だったのかよ」
「いないものはいない」
「喧嘩でもしたのか?」
仲直りしとけよ。ほら、川藤さん泣き始めたぞ。とヒロシが川藤を庇って言っているのもお構いなしに、半田はチラりとヒロシの様子を伺っているそぶりを見せる。
それは、さきほどとは打って変わり、心なしかそわそわと落ち着かない様子で、半田はヒロシの次の反応を期待して待っているような表情を見せていた。
『ったく、先生はしょうがないな。ならオレが先生の友達になってやんよ!』
『ヒロス……!』
または、
『過去はどうであれ、今はオレがいるから一人じゃないじゃん』
『ヒロス……ッ!』
……のどれかだな!あの神崎ともメル友になったヒロならば、オレともなってくれる筈だ……!友達に……!
そう、ヒロシの知らぬところで半田は野心に燃えていた。

ーーそもそも川藤が笑いながら、学生の頃のお前って、色んな奴に追いかけ回されたり、一緒にいたら忍者みたいにいきなり隠れたりしてかなり笑えたわ。とか言って、オレの古傷を抉ったのが悪い……!ちくしょぉ、誰の為に隠れてたと思ってんだよ!オレだって友達欲しかったよ!

半田がありとあらゆる隙間を駆使して、忍者のように隠れていたのも、皆から嫌われていると勘違いしていた半田が、唯一の友人である川藤まで自分と一緒にいることで嫌われてしまうんではないかと危惧したために起こした行動だった。
事実は、嫌われているどころか、男女問わずファンクラブが出来るほどの人気で、半田のファンが後をつけていたのが真相なのだが、未だにその誤解は解けてはいない。

ーー川藤には悪いが、これをきっかけにオレもヒロと友達の関係になるぞ……!
数日しか会っていない神崎がヒロシとメル友の関係ならば、それよりも多く一緒にいる自分とは親友とまではいかないにせよ、友人くらいにはなっていてもおかしくはないだろうと、半田は思った。
ーー頼む、ヒロ!言え、言ってくれ!いや、むしろ、オレから言うべきか?そ、そうだな!ここは大人のオレから……!言うぞ、よし!「ヒ、ヒロ……!」
「ん?どうした先生……あっ!」
「そのだなその……オレ友達がいないから……っ!おおお、お前が……オレの友達になってくれないか……!!」
半田は両目を思いっきりつぶって、よろしくお願いします!と言わんばかりに、ヒロの方に手を差し出した。
すると、少し間を置いて自分のではない、温かくて小さな物が半田の手のひらに重なった。

ーーこ、これは、okと捉えていいのか!?いいんだよな!?って、なんかヒロの手、小さくないか!?

「「よかよー!」」
「え"っ!?」
すぐ側で聞こえてきたのは聞き覚えのある、元気な声が二つ。
目を開けてみれば、そこには、見覚えのある少女がたちが満面の笑みで半田の手のひらを掴んでいた。
「先生はなると友達ぞー!」
「友達ー!」
「へ?なる??ひな?ヒ、ヒロは……!?」
「ヒロシならあっちにおるよ」
「あっちー!」
指された方に顔を向ければ、先程まで美和達が遊んでいたボールと共に、川藤と川藤の眼鏡が地べたに転がっていた。
「え、お、おい、川藤!?」
どうやら美和達が投げたボールが川藤に見事に直撃してしまったらしい。
ヒロシもすでにそっちに行っており、うつ伏せになっている川藤の安否を気にしていた。
「おい、今のかなりクリーンヒットしたぞ!」
「タマがちゃんと取らんからー!ごっめーん、川さんー!」
「美和ちゃんがいきなり本気出すからだよ。大丈夫?川さん」
「ほっといてくれ……オレだけだったんだ……心の友だと思ってたのはよぉぉ!いや、確かにあいつがあぁなったのにはオレにも少し原因があるけどよ!?」
「え、先生に何かしたん?」
「え!?ほ、ほら!川さんは、先生にとって友人じゃなくて、元カ……ごほん!……レだったんだよ!だから仕方がないよ!……………………今カレはヒロ兄だけど」
「お前はなにを言っているんだ、タマ」
「そんなら、うちらが友達になってやるけん!ね、ヒロ兄!」
「お、おう!」
ーーなにぃ……!?
美和の予期せぬ発言に半田は遠くから衝撃を受けた。

「いや、オレは出来ることなら、キレイなおねーさんと友達になりたいわ。眼鏡、眼鏡……」
「なんそれ!ひどか!」
「悪かったな!」
「まぁ、普通に考えたらそうだよね。はい、眼鏡」

和気あいあいともみえるその様子に、少し離れた場所から半田はそれをなんとも言えぬ表情で見ていた。
どことなく、背中に哀愁すら感じられる、そんな半田を慰めるかのように、背中に小さな手がポンと当たる。
「くそぉぉお……!」
そして、一呼吸置いてから、半田は嘆いたのだった。




半田はヒロシと友達になりたい

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