「徹ちゃんの欲しいものって何だ…」

結城夏野は一人、ぽつりと呟いた。
去年は出会った時にはすでに武藤徹の誕生日が過ぎていたのもあり、プレゼントを渡せずにいた。
ならば今年こそはと思ってみたが徹の好きな物と言えばゲーム、または雑誌位しか思いつかない。
人にあげる物を何にすればいいか困ったら、自分が貰ってうれしい物をあげるといいと聞くが、夏野はそれが出来ずにいた。
夏野自身、欲しい物はあった。
だが、夏野のプライドが邪魔をして、欲しいと言う事が出来ない代物だった。

それはもう何度も貰った物だったが、それでも足りなく、それが今の夏野にとっては何よりも欲しい物だった。
更にはそれを毎回仕向けてくる徹自身が本当に欲しいのかも怪しい。
それと、それをプレゼントにするにはあまりに場違い過ぎると思ったのもあった。

――あれはプレゼントにはならない。

では何にすべきか。夏野は一人頭を抱えた。




「徹ちゃん、欲しい物って何かあるか?」

仕方が無いので夏野は徹に聞いてみる事にした。
それはいらない物を贈るよりはいいだろうと思っての事だった。

「お、あるぞ」

「何?」

この村で買える物ならいいがと思いながら、夏野は再び聞いてみる。

「それはだなー」

にこやかにそう言うと徹は顔近づけた。
夏野はそれだけで今から徹が何をするのかは分かったが、止める事をせずにそのまま受け入れる事にした。


触れ合う二人の唇。


それはほんの1、2秒の行為。
相手の熱をほんの少し感じたと思えばその熱は離れていく。
残るのは、ほんの少しふれた相手の唇の感触。


……の筈が、何故かいつもと違っていた。
何故なら夏野の口内に甘く、ねっとりとした物が入ってきたからだった。
ビクリと驚き思わず口を閉じ様とするが、すでに侵入してしまったそれはさらに動きを増し、夏野の舌に絡み付いた。
それは生ぬるい鮪の切り身を舌の上で転ばしているかの様な変な感触。
慣れない感触に戸惑い、思わずそれ噛み切ってやろうかと思っても、呼吸を確保するので精一杯。
何度も何度も角度を変えて唇を合わせてきてはその隙間から少しずつ漏れる吐息が部屋に響く。
後頭部を押さつけられている所為で逃げる事もままならず、ゆっくりと角度を変えられれは歯並びをなぞられる。
それがやがて徹の舌だと認識すれば、唾液が絡み合う粘着質な音さえも聞こえてきてあまりにもの羞恥心に夏野の頬がほんのり赤くなったのだった。

それは今までは唇と唇を合わせるだけだった夏野にとって、とても衝撃的な物だった。

夏野の指先が徹の腕の裾に爪を立てる形でそこを引っ張れば、腰に回された腕がさらにぎゅっと強くなる。
そうして、完全に身動きがとれないまま自分の口内を弄ぶ舌によって次第に手の力がなくなっていくのを感じた。

それと同時に、何か欲しい物あるかと聞いて、何故か自分自身が欲しくてたまらなかった物を与えられている事に体中が熱を帯び、腰やら特に下半身のとある一部が疼いた気がしたのだった。

「んむぅ…ふぁ…」

……どの位そうしていただろうか。
舌の感覚が無くなり、どこまでが自分の舌なのか分からなくなる程二人はその行為に没頭していた。

やがて、限界とばかりにパタリと音をたてて夏野の手が畳の上へと落ちれば、ようやく唇も開放され、息を吸うことが許された。


「はぁ…はぁ…」

半開きの唇からは少しだけ透明の液体が伝う。
鼓動がこれでもかと言う位にうるさく響き、今のこの行為を諫め様にも呼吸を整える方に気が行ってしまい単語すら口に出せない。
寄りかかる形で抱きかかえられながら、熱の入った息を吐いては吸って。

「ご馳走様」

色の入った声が頭上に響くのを感じながら、熱を帯びたその瞳は少しばかり泪を浮かべていた。




*




「夏野ー、お前の誕生日には俺をやるからな」

「いらない」

「そう遠慮するなって」

「…っ」

夏野は今すぐに欲しいと言えない自分に苛立ちを感じながら、ぬれたままの唇を思いっきり拭ったのだった。
10.11.28-11.08.23.
甘くて、ねとり

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