あれ以来、徹ちゃんの部屋に泊まれない時は徹ちゃんが服を貸してくれて何とか不眠は解消していた。
「…これ。助かった」
「おうよ、ってわざわざ洗濯しなくてもよかったのに」
「そうも行かないだろ…。それに今日はこれ必要だっただろ」
「まぁ、そうなのだが」
返したのは…徹ちゃんの体操着の上。
俺が体育終わりの徹ちゃんに無理言って貸してもらったもの。
ここまで来ると重度なのだが、この欲求はもう止め様が無い。
嗅げば嗅ぐほど、どんな物でも徹ちゃんの匂いがついているのなら欲しくて堪らなくなっていた。
「…」
更には徹ちゃんが返した体操着をじっと見ているのが居た堪れない。
「ごめん…。…気持ち悪いよな」
こんな性癖があった事に俺自身も驚いている。何より、ショックだ。
今までは無かったと言うのに、このままじゃ俺、どうなってしまうんだろうか…。
「え、あ、いや!そんな事ないぞ!!」
俺が落ち込んでいるのに気づいたのか、慌てて徹ちゃんが否定した。
「じゃあ何でそんなにその服を見てるんだよ……洗い足りなかったか…?」
よく洗ったし、俺の匂いはしてないと思う…が…。
やっぱり、俺が抱いて寝てたと言うのが大きいか…。
まあ、そうか。洗って返したとは言え、自分の服の匂いを一晩中嗅いでから返されたら普通は無理だよな…。
「そうじゃなくて、だな…あー…お前が俺の体操服抱いて寝てたのかと思ったらな、何だか気恥ずかしいと言うか」
気恥ずかしい…?って何だ。
「…悪かったな」
ぬいぐるみを抱いて寝る子供を想像されたかと思い、少しだけ口調が悪くなる。
むしろ徹ちゃんの服の匂いを嗅ぎながら……をしていたとは口が裂けても言えないが…。
「そんなわけで、お前も味わえ」
「は?」
そう言って手のひらを差し出された。
何だ?何かを要求している手なのは分かるが…。
「お前の体操着をよこせ」
「な!?」
「俺だけ恥ずかしいのも癪だし、何よりお前の匂いがして俺も気持ちよく眠れるしな」
「!!!」
「そう言えば今日は体育あったよな!しっかり汗掻いて匂いつけてこいよ。夏野♪」
いや、何で人の時間割を知ってるんだ。
「そう言えば知ってるか夏野。自分好みの体臭を持っている奴とは相性がいいらしいぞ」
……何の相性だ!
てか、それは恋人同士での事だろ!
「そう考えると俺たちは相性抜群だよな!俺もお前の匂い好きだし」
「!」
満面の笑顔の徹ちゃんを見て、あぁ、俺は徹ちゃんには適わないと思った。
きっと今のは無意識に言ったに違いない。
徹ちゃんの事だ。
今の言葉に深い意味は無かっただろう。
…だから、下着姿のまま同じベッドで寝てる事すらおかしい事も分かってない。
くそ…何で俺一人意識しないといけないんだ。
徹ちゃんの天然が!
――そう思っていたのだが…。
それから数週間後…。
気づけば一緒に寝るときは下着の着用さえも許されなくなっていた。
…本気で徹ちゃんが天然なのか計算してなのか、もう分からない。いや、分かりたくないかもしれない。
あと俺のパンツを返せ。
10.07.20-11.08.18.
快楽に必要なモノ
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