性別の違う者同士がただ一緒にいるだけで付き合っていると言う事にされる事に理不尽さを感じる。
村でもそうだったが…ここもそうだ。
付き合っていなければ一緒にいてはいけないのか。

俺が徹ちゃんと同じ性別だったら、誰も何も言わなくなるのだろうか。

「もしかして…あの先輩と付き合っているの?」

「…違う」

先輩…先輩といわれて一瞬だけ誰を指しているのかと悩んだ。
そう言えば徹ちゃんは俺より2コ上。先輩にあたるのか。
徹ちゃんの動作の一つ一つがどう見ても年上な感じがしない所為か違和感を感じた。

「え〜だって、よくしゃべってるの見かけるし。家にも行っているんでしょ?今日家に来るかーってさっき会話してたし!付き合ってるのかと思った」

「違うわよ!家が近所なだけよっ!ね、結城君!あいつは村の兄貴きどってるだけ」

「恵ちゃん…」

「で、でね、結城君…今日…もしよかったら、私の部屋に…」

付き合ってる。そんな訳ない。
確かに徹ちゃんと俺の性別は違う。部屋にも二人きりになる。けど、そんなの普通の事だろう。
中学まではこんな事を言われる事は無かった。誰かとしゃべろうがそんな事言われる事なかった。
高校になってからだった。この地域特有の先入観と言う物なのかもしれないが、それにしても面倒臭い。
俺が誰と一緒にいようが、関係ない事だ。

「武藤先輩って中学校の時から結構もててたんだよ。優しいし、面倒見いいし。武藤先輩目当てでこの高校入った子いるし」

「あの笑顔とか仕草とかどれもが母性本能くすぐられる〜!私のお姉ちゃんここの卒業生なんだけど、可愛い可愛い言ってた!」

「行き成り引っ越してきた子と仲良くなってて結構ショック受けてる子いるんだよー」

「でも、私達は二人の事応援してるけどね!お似合いだし、早く付き合っちゃえばいいのに!」

ありがた迷惑と言うのはこう言う事だろう。勝手にショックを受けてる奴がいれば、応援してくる奴もいる。
そもそも、お似合いって何だ…。あと母性本能って…何だ。
俺が、徹ちゃんと付き合えば満足なのか?

「どしたー夏野?」

「別に」

徹ちゃんは、何も思ってないのだろうか。
俺と二人でこうやって部屋にいる事を。

"あれ、結城ってあの先輩と付き合ってるのかと思った"

"俺も俺も、他の奴らもそう思ってるぞ。女どもが言ってたけど家行ってんだろ?"

"部屋で二人っきりにでもなってみろ…!小学生じゃあるまいし、これでやらない男がいるわけない!"

"これで何もないなら腰抜けか、本当に恋愛対象として見られてないかだよな"

"で、そこんとこどうなの?部屋二人っきりになってねーの?あそこ葵先輩もいるよな〜あのボーイッシュさがまた…いい"

さっきからずっと頭の中を占めるのはこの言葉ばかり。
気にしないつもりだった筈が、結局は気になっている自分がいる事に、嫌気がさす。

恋愛対象、か…徹ちゃんがそんな事考えてる訳ないか。

もう何度もこの部屋に来てる。けど、何も無い。
いや、無いのが当たり前なんだが、何かをすると言うのは無く、徹ちゃんはきまってゲーム、俺は雑誌。
会話もそこまでしない。したい時にする。したくない時はそのまま。

だからだろうか、この空間がとても居心地いい。

気づけば、あっと言う間に時間は過ぎる。
ここにいる時だけは、この村にいると言う事を忘れられる。
今までは、この村に来てよかった事などなかった。
早く都会に帰りたいと思っていた。けれど――…。

最近何かが可笑しい。

「ん、ふふ」

「…何だよ」

「そんなに眉間に皺寄せるな、跡が付くぞぉ」

そう言って徹ちゃんは俺の額に指を跳ねさせた。

「笑うとな、幸せがくるそうだ。ほら、笑え夏野!」

「…人の顔を引っ張るな」

…徹ちゃんの笑顔を見ると胸が温かくなった気がする。むしろ、少しくすぐったく感じる。
あまり人に触れられる事を嫌っていた自分が、こうやって徹ちゃんに触られる事に嫌悪感を抱かない。

徹ちゃんだから…?
胸に何かがつっかかる。

今はまだ、これが何なのか分からない。
10.01.28-10.02.19.
異性同士

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