父さんは宗教関係の類には特に厳しい人だった。
寺への参拝などもっての他で、それはもちろんクリスマスの日も例外ではなかった。
周りの奴らがクリスマスの日になる度に騒ぐ中、俺だけはサンタがいる事を一度たりとも信じずに生きてきた。

「ほえ、お前ん所ってクリスマスもしないのか」

「あぁ、父さんがそう言うの嫌いだから。…それに興味ないしな」

「興味ないって寂しいこと言うなよ、サンタさんが泣くぞ」

いや、泣くってなんだ…泣くって…。

「サンタなんてただの作り話だろ」

と言うか徹ちゃん、あんた一体いくつだよ。
俺より年上の筈なのに、どうも徹ちゃんの言動は毎回俺よりも年下に思えてならない。
しかもサンタさんの台詞がヤケに似合うのもどうかと思うが…。

「夏野よ、そんな事言っていると本当にサンタさんがこないぞ。サンタさんはなぁサンタを信じてるいい子の所にしかこないんだぞぉ」

「くだらない」

「くだらなくないぞ夏野。サンタは人が本当に欲しいものをくれるんだからな」

「…名前を呼ぶなって言っているだろ…」

…そんな満面の笑みで言われたら、俺以外の人間は信じてしまいそうだと思えた。
本当に嬉しそうに笑う。徹ちゃんの家はきっといいクリスマスを過ごしてきたのだろう。
あの小父さんや小母さんからにしてクリスマス以外でもイベント毎に色々とやっていそうなのは伺えた。

「…それはサンタに扮した親だからだろ。自分の子供の欲しいの位、普通に分かるだろ」

「お前なぁ…そんな夢のない話を…」

そんな超能力者なサンタがいる訳がない。
本当に徹ちゃんが言う通りいるって言うのなら、今俺が一番欲しい物を当ててみろと思った。
きっと誰にも分からないだろう。何よりこんな事、誰にも言える訳がない。

所詮、子供の夢を壊さない為の親心と言う奴だ。
それも結局、子供が大きくなればサンタの正体は自分の親だった事に気づく。思い描いていた絵本の中に出てきた様なサンタはいない事に。
大量なプレゼントを入れた袋も、空を飛ぶソリも、赤い鼻のトナカイも童話の中での話。

「そもそも、クリスマスが何の日なのか知らないでやっている奴らが大半だろ、周りが騒いでいるのにつられて一緒に騒いでいるだけじゃないか」

「んーまぁ、そうなんだが、宗教的な物じゃなくてなぁ…家族や、恋人と一緒にいる日と言うかだな」

「何もその日にしなくてもいいだろ、何でもかんでも記念日をつけたがるのが分からない。ってか、もういいだろこの話は」

徹ちゃんとクリスマス論議をする為に来たわけじゃない。
そもそも、徹ちゃんから今日の夜は明けといてくれと言われたから来たけど、この話をする為だったのか…?

「まぁ、言われてみれば確かにそうだな…けど」

けど…?まだこの話をするつもりなのか…いまさらこの年でサンタを信じろと言うのも無理があるだろ。
そもそも、クリスマスだからと言うのも―…

「俺はお前とクリスマスイヴに一緒に過ごせて嬉しいけどな。俺の場合、クリスマスは特別な日って刷り込み見たいに言われて育ってきたから、やっぱりそんな特別な日にお前と過ごせるのは嬉しいよ」

「…」

「宗教とか周りが騒いでいるからとかじゃなくて、気持ちの問題だと思うんだ」

…気持ち…。

そう言って、徹ちゃんの顔が近づいてきたかと思えば、柔らかい感触。……徹ちゃんの唇が俺の口に触れていた。

「……しょうがないから明日は可哀想な夏野に何かプレゼントしてやるよ。何か欲しいのあるか?明日はクリスマス限定!お前だけのサンタさんだぞ、夏野」

サンタって髭もつけないでそのままの姿で言うか…。本当、夢も何も無いな。
まったく、徹ちゃんにはいつも驚かされる。……本当に。

「…いらない。それに…もう貰った」

「ん?…え」

だからだろうか…。
普段はぼへーっとしてて抜けている様に見える癖に、いきなり人の意表を付いてはこうやって俺の心を…。

「徹ちゃんは、何が欲しい?今度は俺が徹ちゃんにやるよ。あんたの欲しい物。今度は俺があんただけのサンタクロースになってやる」

「え、え…な、夏野…?」

徹ちゃんの喉仏が大きく揺れるのを確認すれば、そのまま床へと押し倒した。
徹ちゃんの腰に跨って見下ろしてやれば、徹ちゃんはいまいち状況を理解できていないらしく大きく瞳を開けている。

…いつもは見下ろされる側だったが、たまには徹ちゃんを見下ろす側になるのもいいな。

「名前を呼ぶな。それに俺は今、サンタクロースだ」

「サ…!?」

とりあえず、"夏野っ!お前っ顔がサンタじゃなくてサタンに見えるぞ…っ!"と顔を真っ赤にして慌てる徹ちゃんの口をそのまま自分の口で封じ込める事にした。














「…この日程、クリスマスと言う日に感謝した日はないかもしれない…」

「…はぁ…はぁ……何言ってんだよ…徹ちゃん…てか少しは加減しろって…くそ…もうここで寝る…」

「夏野!明日はお前用のサンタクロースの服を買いに行こうな!」

「…」

…徹ちゃんが嬉しそうに何か言っていた気がするが、子供に好き勝手にされた玩具の如く、俺は今それどころじゃなかった。


でも、顔を赤くして狼狽たえている徹ちゃんを見れただけでも、そこまでこの日は悪くは無いなと思った事は徹ちゃんには黙っておこう。
10.12.10.-10.12.13.
今一番欲しい物

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