その日以降、俺達は一回きりじゃなくて何度もする様になった。

きっと徹ちゃんの中ではこれは練習であって、その行為をしめしているとは思っていないのだろう。
徹ちゃんの頭の中には男と男がする事は入っていない。
男と女がするものだと思っている。

なら、これは何なのだろうか…。
体を寄せて。互いの目と目を合わせて。
そして唇と唇を合わせるこの行為の事を…。

軽く触れるだけのキスから、いつしかそれだけじゃ物足りなくなって、どちらともなく互いの開けた口元から……舌と舌を、自身の唾液を絡めるまでになった。

ぴちゃり……。

絡み合った部分から零れる水音。目の前の徹ちゃんの顔はほんのり赤い。
顔が熱い時点できっと俺の顔も赤いのだろう。
熱に浮かされたまま、何度も無我夢中に互いを求めて言葉を紡ぐ。

「……ん……っ」

「夏野……気持ちいいか?」

「……そんな、事、きくなよ……っ」

おかしな気分だった。おかしな事だった。
こんな自分に大事な人が出来たことにも笑えるし、その相手が自分と同じ男だった事も、その人がこの忌み嫌っていた村の住民だった事も、全てがおかしかった。
親がこの村にさえ引っ越してこなければ、都会の暮らしで満足していたら、出会えなかった…人。

出会ってしまわなければよかった。この村にこなければよかった。自転車をパンクさせたまま帰ればよかった。

好きだと気づいた途端に、失恋。笑える。

「ん、ふぅ…っ」

なら、これは何だろうか。

普段どおり徹ちゃんのベットの上で雑誌を読んでいれば、いきなり奪われる唇。
いきなりするなよな!と、お決まりの言葉をにへらと笑う徹ちゃんに投げつけながらも、そのまま今日二回目のキスを受け入れた。

背中に腕を回せば、思ったよりもがっしりとした体格と程よくついている背中の筋肉が触れた指先から伝わる。
俺の貧相な体とは違う、徹ちゃんの…体。

「…徹…ちゃ…」

「ごめん、夏野」

「い、いよ…好きなだけ練習、しろよ…」

互いの一部が硬く膨れ上がっているのを知りながらそれに目を閉じて、互いの名前を呟きながら、何度したか分からないその行為を繰り返す。

……これは何だろうか。

練習と言いながら、徹ちゃんの家にいけば毎回と言っていいほど何度もこの行為をした。
最近じゃ、1回きりじゃ終わらなくなっていて、一度キスをしてしまえば、唇がふやけるんじゃないかと思うくらいに何度も、何度もその行為を繰り返した。
一度たりとも俺からはせず、全て徹ちゃんがしたい時に身を任せ、徹ちゃんが満足するまで俺は何度も何度もその唇を受け入れ続けた。

徹ちゃんの瞳に映るのは、自分。
徹ちゃんは俺の顔をその瞳に映して、それでも、何度も唇を重ねてくる。
あちらこちらと跳ねている徹ちゃんの毛先が頬に当たるのが好きで、最近ではベッドに寝転がって雑誌を見ているそぶりを見せつつ、徹ちゃんのキスを待っている事が多くなった。


俺を見下してくるその優しげな瞳。組み敷かれるその体勢。

自分の気持ちを覆い隠して、練習だと言って親友である徹ちゃんを誘ったのは俺自身。

「夏、野…」

少しばかり切羽詰った様な、徹ちゃんの顔が間近にある。
俺の髪の毛を優しく梳きながら、名前を優しく呼びながら、俺に何度も唇を落としてくるその顔は赤く、俺を映すその瞳は熱を帯びていた。
ズボン越しでもわかる徹ちゃんの大きく反そり勃ったソレが、俺の太ももに微かに触れる。

「夏野…」

普段よりも色の付いたその徹ちゃんの声音に、…もしかしたら、徹ちゃんも…そう思ってもおかしくはなかった。
10.07.28-10.07.31.
口付けと期待

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