まほやく | ナノ








▽プール開き

 梅雨入り。
 雨の日が増え、オーエンが学校をサボる回数も増えた。最近は彼が登校すると、晶は「束の間の晴れ間みたいだな」と思う。

「衣替えしたのに、オーエンは半袖を着ないんですね」
「肌を出すのが好きじゃない。あまりに無防備だろ」
「まあ、その分涼しいですから。おすすめですよ」

 自分のシャツの袖口を引っ張って見せると、何故かじろりと睨まれた。が、めげない。

「日本の夏は、オーエンにとっては過ごしにくいでしょう? 気温も高いし、湿度が高くて息苦しいし。だから最近、学校に来てくれないんですよね?」

 教室にはクーラーが設置されているが、廊下や昇降口までは冷気は届かない。
 オーエンのマンションは家の真ん前がバス停だけれど、どうやったって暑いものは暑いのだろう。心なしかいつもより覇気もない。
 つまり、早々に夏バテしているのだ。

「僕に学校に来てほしいわけ?」
「そりゃそうですよ。学校でしか会えないですし」
「おまえが僕の家に来れば会えるよ」
「え、いいんですか? いつ行っていいですか?」

 あれから何度か遊びに行っているから緊張感はないけれど、やはり嬉しいものは嬉しい。早速放課後の約束を取り付けたが、

「それはそれとして、やっぱり学校は来た方がいいと思いますよ。プール開きもあるし」
「……プール?」
「はい。ね、涼しそうでしょう」

 晶としてはとても楽しい話題を持ち出したつもりだったのだが、オーエンの顔はどんどん険しくなっていく。苦くて不味いものを噛み締めたような、渋い表情だ。

「……オーエン、水着持ってますか?」
「持ってない」
「じゃあ買った方がいいですよ。よほど際どいデザインでもなければ、学校基準の水着じゃなくても怒られませんから」

 中学までは指定のスクール水着だったが、高校入学と同時に自由解放だ。晶も去年は友達と一緒に、お小遣いを握りしめてデパートに水着を選びに行った。

「……おまえが付き合うならいいよ」
「え?」
「水着。おまえが付き合うなら買ってもいい」
「えー……?」

 オーエンと買い物に行く。やぶさかではない。アイスやクレープの寄り道とは違う、れっきとしたショッピングだ。楽しそう。とても楽しそうだが、

「……男子の水着選びに、女子が付き添って楽しいですか?」
「どう思う?」
「私は楽しいけど、ちょっと恥ずかしいですね」
「じゃあ行こう。面白そう」

 少し困った気持ちにもなったが、オーエンはご機嫌そうにしている。
 水着を買う=プールの授業に出る=オーエンのサボりが減る、というのも望むところではある。

「男子の水着のバリエーションって、しみじみ見たことないから分かんないですね……予習していった方がいいですか?」
「バカじゃないの?」







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