My life didn’t please me, so I created my life.
鷹斗→撫子
壊れた世界転送前 捏造



けたたましい警告音がCZ内に響き渡った。
実戦経験のあるなしに関係なく戦闘態勢に入る職員らに紛れて
守られるべきキングが向かうはクイーンの眠る地下室。
いつもは青白い光に包まれたその場所が
今は不気味な赤い光と警告音が充満しており、
中央に置かれたカプセルに主がいないことを空しく知らせていた。


『撫子…必ず、助けるから』


CZからクイーンを奪った組織を断定するのに、そう時間はかからなかった。
それはこれまで積み重ねてきた危険因子の情報や
施設内の警備システムから特定できたというのも一つであるが
はっきりと敵を見据えることができたのは、
彼らのほうから犯行声明を送りつけてきたからだ。

大事なクイーンを殺されたくなければ政府関係者を捕縛。
キングの命を差し出せという物騒な要求まで突き付けてきたその組織は
同じ反政府組織である有心会と並ぶほどの力を持っているといわれている。
最新の情報によると長が代わったのを機に過激思想に走っているらしく
クイーンを傷付けるではなく殺されたくなれば、と記していることからも
どれだけ危険な状況であるかは明らかだ。

そんな組織に誰がクイーンの情報をリークしたのか
そして、CZのセキュリティシステムをどうやって無効化したのかは分からない。
鷹斗にとって組織がどれ程の力を持って
政府に対抗しようとしているのかも関係なくて。
ただ、撫子が無事でいてくれさえすればそれで良かった。



「どうやら、俺は君たちを野放しにしすぎたようだね」


撫子が連れ去られても必ず助け出すと余裕のあった鷹斗らしからぬ
地を這うような声が目の前の男を重く威圧する。
怒りに淀みんだ瞳は朱殷の色を浮かべており、
これから起こる悲劇を予感させた。

こうして鷹斗が組織の長と対峙することができたのは
転送装置の座標を計算し尽くした結果、瞬間移動を可能にしたためだ。
予定では撫子の元へ現れ、奪還し終了するはずだったのだが
移動した先で、眠る撫子と彼女に跨り汚そうとする男を目にしてしまっては
取り戻して終わりというわけにもいかず。
唯一無二の尊い存在に触れた懲らしめが必要であろう。


「う、動くな!女を殺すぞ!」


鷹斗の底知れぬ怒りに怯え気でも狂ったか。
あろうことか男は撫子を腕に抱き、ナイフを首元に這わせた。
細く白い首筋が映り込むほどに美しく磨かれたそれは
彼女を殺すために用意されたもののよう。

男が本気で撫子を殺すつもりだったのかは分からない。
もしかすると手の震えから誤って傷付けただけかもしれない。
それでも、首筋に赤が伝ったという事実は変えようがなくて。
鷹斗の中で滾っていた怒りは急速に冷めて
パリンとガラスが割れる音がした瞬間に冷たい殺意が溢れ出し
胸元から取り出した拳銃を不気味に輝かせた。


「本当は撫子が無事に戻ってきてくれさえすれば
君たちのことなんてどうでも良かったんだけど…
彼女を汚す者も危害を及ぼす者も、俺の望む世界に相応しくない」


君たちとは一生分かり合えそうにないから、そう付け足した鷹斗は
銃口を目の前の男と、彼が率いる組織全体へ向ける。
矯正措置なんて生温い手段は使わないと暗に示した鷹斗の言葉に
男はごくりと生唾を飲むも、表情はどこか達観したふう。
「政府のお偉いさんは人を殺せねぇんじゃなかったのか?」と
挑発したように言うそれが彼の余裕の一つなのかもしれない。


「うん。だから、この世界じゃないどこか遠くに行ってもらおうと思って」
「はぁ?」
「これも大事な研究の一つ。命の保証はできないけど…
お仲間と政府に管理されない世界を目指せるんだから
君にとって好都合なんじゃないかな」


そんな話をしているうちに鷹斗の耳についた通信機から
現在この施設内にいる人間を対象とした転送準備が整ったという連絡が届く。
同時に今いる部屋を含め、建物全体が青白い光に包まれ
歪んだ時空に飲み込まれる感覚を受けた。

途端に狼狽え始める男に対し、鷹斗はあくまでも冷静で。
銃の引き金に指をかけつつ息を詰めて狙いを定めると、事務的に打ち掛けた。
放たれた弾丸は真っ直ぐ目の前の敵へ。
刹那、キンッと淀んだ空気を劈くような音とともに
男の握っていたナイフが弾かれ床に落ちる。

抗う武器も逃げ場も失くした男は呆気なく撫子を解き放すとそろそろ後退り。
絶望の中でその身体が別世界へ飲み込まれるのを待つばかりとなる。
そんな男に興味もないといったふうに鷹斗は手放された撫子を胸に受け止めると
戻ってきた温もりを強く抱き締めた。


『あーあー。聞こえてますかー、キング』
「ああ…レインか」
『すっかり気が緩んだところ悪いんですが…
今回の転送結果ですねー、やはり量子変化が不十分で
障害が残った者を含めても転送に成功したのは3%程度ですかね』


通信機から聞こえてくるレインの声は
淡々と業務を熟しているようでどこか楽しげ。
事前情報の少なさであったり、急激な転送などを問題点として挙げ
早くも次へ繋げようとしているあたり流石研究者といったところか。


『あのー、キング。話聞いてます?』
「失うと思った…」
『はぁ…』
「怖くて気が狂いそうだった…撫子が無事で良かった」


唐突にそんなことを言うものだから
通信機の向こうからは戸惑いが伝わってくるけれど鷹斗は構わず
浅い傷で済んだおかげですっかり血が固まったそこへ
おずおずと指を這わせながら詰めていた息を長く吐いた。


『そんなに追い込まれていたのに
どうしてあの時、敵を撃たなかったんです?』
「撫子の生きる世界を血で汚したくなかっただけだよ。
ただの俺のエゴ。がっかりした?それとも、彼女への愛を疑う?」
『甘いとは思いましたが、良いんじゃないですか−?
あなたがそれこそ最善だと思ったのなら…
僕としても貴重なデータがとれましたしねー』


期待以上でしたよ、と続いたそれは
通信機のノイズに掻き消され、鷹斗に届くことなく。
のちにキングとクイーンをCZに戻すための準備に入るためか
挨拶もそこそこにレインとの通信は切れてしまった。

残されたのは静寂だけで。
人の気配が消えた施設内は時を忘れ、
彼女と2人きりの世界にいるように錯覚させる。

床に取り残されたナイフだけが異端な存在で。
キングはそれを鋭く睨むと彼女を傷つけるモノのない世界を誓う。
それは心からの願いなのか、仕向けられた欲なのかは分からないけれど
存在も知れぬ神に抗うべく、賽は投げられた。






end



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -