Happiness depends upon ourselves.
鷹斗→←撫子
鷹斗BADEND「Timeless World」


腹部に受けた傷が治っていくと同じくして
じわりじわり変わりゆく窓の外の景色。
この世界で唯一、安全な場所に閉じ込められ、
外部との接触を一切遮断されているため詳しいことは分からないが
有心会の襲撃からこっち、政府のやり方は大きく変わったようだ。

全ての人が幸せに、なんて生ぬるい考えは一掃。
キングに歯向かう者には容赦ない死を。
支配された人々はキングのため、撫子のために世界を幸せに飾り付ける。
幸せが実現したが最後、危険分子として見られている自分らが
この世界にいられなくなるとも知らずに。


「撫子、入るよ?」


時間の止まった空間に飛び込んできた声にどきりと鼓動が跳ねた。
こちらが返事をせずとも固く閉ざされた扉は開かれ、
温度管理された部屋にほんの少し冷たい空気が流れ込む。
それに混じって柔らな春の香りが届いた気がして
怪訝な眼差しで香りの元を辿る撫子に対し、
訪問者である鷹斗は悪戯に笑い、背に隠していた花束を目の前に差し出した。


「スイートピー…」
「そうなんだ。君のために、花をいっぱい咲かせたんだけど
外に連れて行ってあげられるのはもう少し先になりそうだから、数本摘んできた」


悪びれた様子も見せず話す鷹斗の笑顔が怖くて
撫子は震えながらに手を伸ばし、花束を受け取ると小さくお礼を言う。
感情の籠もっていないそれだったが鷹斗は安堵したように笑い
「お礼なんていらないよ。この世界に咲いている花は全て撫子のなんだから」と
当然のことのように言うから、自覚できるほどに顔が強張ってしまった。

いつか、自由に外を歩ける日が来たなら
記憶に残る壊れた世界との違いに驚かされることだろう。
撫子と鷹斗しかいない世界は青空の下で美しい花々が揺れる景色が続くばかり。
それが全て自分のモノだと実感した時、果たして幸せだと思えるのだろうか。
撫子はスイートピーに少しでも温もりを取り戻した自身の心へ問いかける。


「鷹斗…」
「ん?なぁに?」
「私、どこかおかしくなっているのかしら」
「どうして、そう思うの?」
「いくつもの犠牲の上に咲いたこの花を綺麗だと思うのよ」


小雨のような淡々とした疑問の粒が落ちる。
撫子にとっては淀んで見えるそれだが
鷹斗はまるで宝石や硝子細工、琥珀糖に触れるみたいに大切に掬う。


「それは俺のせいだよね…俺が歪ませてしまったから」


両手に包んだそれから目を逸らさずに呟かれた言葉は悲しげ。
鷹斗の揺れる瞳は光が反射して見えた。

いっそ心が壊れてしまったなら楽になれるのにと思ってはいても
花束を抱えていないほうの腕を伸ばし、強張った彼の頬に触れてしまう。
その瞬間に見せる驚いた表情も零れる困惑の声も、撫子の心を震わすから
自分の世界はとっくに鷹斗を中心に回っているのだと思い知った。






END




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