I hope to see you again.
鷹斗→撫子→理一郎
小説「黄昏に咲く花」第8章


有心会のCLOCK ZERO襲撃からこっち、理一郎を思い出さない日はなかった。
何の前触れもなく目の前が赤く染まり、当時の光景が蘇る。
脇腹に突き刺さった刃とそこから溢れる赤。
苦痛に顔を歪ませた理一郎の最期の言葉を思わせる謝罪も
人ひとりの命が消えてしまいそうだというのに冷めた周囲の反応も
泣きたくなるくらい鮮明に思い出される。

すっかり涙も枯れてしまった撫子の瞳は窓枠に切り取られた荒野へ向けられ、
そこにいるはずのない幼馴染の姿を探すばかりとなっていた。



「撫子…入るよ」


ふと部屋の外から声を投げ掛けられたが、
近しい過去に意識を囚われていたため、すぐに言葉を返すことができなかった。
向こうも撫子の心が此処にないことを分かっていたのだろうか。
返事を待たずして扉が開き、一つの影が遠慮がちに歩み寄ってくる。

撫子は近付いてくる気配を現実として捉えられぬままでいたのだけれど
震えた手を掴まれた瞬間、世界を染めていた赤が薄れ、
波のようにじわりじわりと引きずり込もうとしていた深い過去から救い出された。

それでも、悲壮感と罪悪感が残る現在に立ち竦むだけでいるのが心許なく思え、
自身を残し、引いてゆく波を追い駆けるように
「鷹斗。お願い…理一郎を」と、あの時と同じように目の前の彼に縋ってしまう。


「うん、分かってる。
今もアワーに行方を捜索させているから…だから、落ち着いて。撫子」
「…外に、探しに行かせて」
「それは…」
「じっとしていられないの。何かしていないと、思い出してしまうの…」


理一郎は苦しんでいた。
赤く染まった傷の深さにではなく、もっと別の何かに傷付いて。
そんな彼に掛ける言葉も見つからず。
今だって、彼が生きていることを祈るばかりで
何もできずにいることが悔しくてたまらない。

溢れる感情に疼く心に対し、
頭では、今の自分にできることは何もないのだと分かっていた。
だから「ごめん、撫子…今は待ってて、としか言えない」という鷹斗の答えに
然程、ショックを受けることはなく。ただ、心が冷えてゆくだけ。


「だけどね、撫子。俺はきっと君の願いを叶えるから。
理一郎のことは必ず見つけ出すし、
時間はかかるかもしれないけど自由に外を歩けるようにもしてあげる」


鷹斗の言葉には自信と撫子への想いが感じられて。
不思議と信じたいという気にさせられる。
だから、つい甘えて「鷹斗は…理一郎が生きていると思う?」なんて
答えの分かった質問をしてしまう。


「思うよ」


そして、鷹斗は望んでいた通りの答えをくれるから
言葉の中にはっきりとした確証なんてなくても
彼が言うのだから本当に理一郎は生きて、
いつか目の前に現れてくれるような気がしてくる。

それは心のどこかで鷹斗を信頼しているということなのか、
将又、此処は彼が創る世界だとして神のように崇めているからか。
どちらにしても自分は鷹斗にのまれているのだと自覚しながらも
いつか理一郎と会える日がくると信じて。
久しぶりに見た夢は温かく幸せなものだった。







End



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