コード・ゼロ

  沈溺の音 2



また明日、そう言って親もとへ帰ってゆく子供たち。
一つまた一つと声が消えてゆく広場に最後に残った鷹斗は
夕日もろとも、今にも自身を飲み込まんとする紺を見上げる。

先程から感じている胸騒ぎは、いつもとほんの少し違う空の色のせいだろうか。
今日は撫子が迎えに来なくて空が暗くなったことに気付けなかった。
ただそれだけのこと。

鷹斗がそうであるように彼女も一つのことに囚われると
時間を忘れて夢中になることがある。
それは撫子の好きな勉強であったり、料理であったり様々。
だからきっと彼女は今家にいて
最近、必死に取り組んでいるらしいある病の原因と治療法でも探しているのだろう。


「帰ろう…撫子のところに」


拭えぬ不安を見て見ぬふりするみたいに明るくを装って呟いた鷹斗は
いつもは撫子と二人歩く道を独り足早に進む。
政府解体から暫くは追手を恐れ、地方を転々と移り住む日々だったが
有心会が力を失くし、機能しなくなっていると聞いて少し落ち着くことができた。

勿論、統制が成されなくなったことにより国民の生活は荒み、
何が起こるか分からないという現状に危険がないわけではないが
元々、政府や組織に頼らない生活を送っていた地方では
比較的、安定した生活が保たれている。
そのせいか、撫子とともにいられる今の幸せがいつまでも続けば良いと願うあまり
周りが見えていなかった、見ようとしなかったことは否定できなくて。


「撫子!」


帰り着いた我が家に一つの明かりも灯っていないこと。
そして何より、撫子の姿がなかったことに
ふと自分の運命を突き付けられ、心が凍りつくのを感じた。


「撫子!どこにいるの!」


撫子の帰りが遅くなっているだけだと希望を持つことはできたけれど
先程からずっと拭えなかった嫌な予感はきっと当たっているのだと思う。
自分の勘はひどく働く。
だけど、肝心の彼女の居場所まではっきりと分からないからもどかしい。

とはいえ、何もせずにじっとしているのは性質ではなくて。
鷹斗は周囲を探すついで、近隣の住民に訪ね歩こうと早々に決める。
それでもし見つからなければ有心会でも何でも、
少しでも可能性のある場所へ向かうまでだという覚悟もあった。

勢い十分に、帰って来たばかりの自宅を飛び出そうとした鷹斗だったが
不意に玄関の方からコンコンとノックの音。
そして「キング。お迎えに上がりました」という声が聞こえてくる。
玄関扉の向こうには幾つかの気配があって
彼らが撫子の行方を知っていると、すぐに気付いた鷹斗は迷わず扉を開けた。





To be continued….


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