壊劫

  微睡む世界 3



ローテーブルの前にちょこんと座って
約束通り、布に覆われたそれを見せるように促してくる彼女が
愛らしくも恐ろしくも見えて、イッキは苦笑を浮かべると
素直に持っていた荷物をテーブルの上に置いた。
大切に扱ったつもりだがガタンと音が響くそれに驚いたらしい彼女は
幾つか瞬きをしたかと思えば、警戒したのか布の奥を睨みつける。


「大丈夫。君もきっと気に入るものだから」


一声掛けて被せられた布を剥ぎ取ったなら、
空気が波立ち、彼女の髪がふわりと揺れた。

はっと息を飲んで、目を輝かせて、感動の声を上げる。
表情がコロコロと変わるのを見ていると
彼女が本当に心を取り戻したのだと実感できて、嬉しくなった。

そんな中、ふと彼女が顔を上げて「文鳥、ですか?」と問うてきたため
少し動揺してしまったが「そうだよ」と短く答えたなら
彼女は再び視線を落とし、黒い鳥籠に映える白くて柔らかな羽毛と
桜の花弁のようなピンクの嘴が愛らしい文鳥を見つめる。


「私の、ため…ですか?」
「うん。ちょっとは気晴らしになるかって思ってね」


彼女は自分が独りが嫌だと言ったことを思い出したのだろう。
驚いたように瞬きを繰り返したのち
「ありがとうございます」と戸惑い交じりに言った。


「名前、何が良いかな?」


2人の間に繋がりが生まれたような温かな気持ちで問い掛けたなら、
彼女は文鳥を見つめたまま「オリオン」と小さく呟いた。
まるで懐かしい友人の名を口にするような声音に嫉妬が掠めるイッキだったが
次の瞬間、彼女はどうしてその名前が思い浮かんだのだろうかと
戸惑っているようであったため、嫉妬が違和感に代わる。

しかし、そのことに触れてはいけないような気がして
イッキは「オリオン…良い名前だと思うよ」なんていう
当たり障りのない言葉を返すだけに留めた。

途端、彼女は安堵したらしい。文鳥に「オリオン」と弾んだ声を投げ掛ける。
その様子にイッキも安堵を零し、鳥籠を覗き込むと
文鳥を見るふりをして、その向こうに見える彼女の微笑みを見つめた。






End


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