ペシミストの雨宿
隼人→ツグミ
BAD「消えることのない炎」


窓枠に切り取られた風景を灰色に濡らす雨。
しかし、甘やかな鳥籠の中にはその音さえ届くことはなく。
時の止まった部屋で、隼人は今日も眠り姫の目覚めを待つ。

傍らの椅子に腰かけてツグミの寝顔を見つめていても
思い出されるのは終焉というには明るすぎたあの夜のことばかり。
炎に包まれた彼女を見た瞬間、怒りと恐怖が沸き上がった。
その一方で燃えゆく色に臆せず
大事なものを守ろうとする姿を確かに美しいと感じた。

そこまで思い出されたところで自己嫌悪に陥る。
ツグミを助けることができなかったことを含め、自分で自分が許せなくて。
例え彼女が目覚めたとしても一生背負っていくものであるとしている。


「ツグミ…ごめんな」


眠る彼女に何度伝えたところで届くことはないと分かっていても
口から零れるのは謝罪の言葉ばかり。
それに対する返答がないことに安堵する自分もいたりして、情けない。

隼人は願っていた。ツグミが目覚めることを。
しかしそれと同じくらい、どんな時でも輝きを失わなかったその瞳に
悲しい現実が映ることを恐れていた。

助けるという約束を破った自分を彼女はどう思うだろう。
一生残る火傷の跡を見て何を感じるのだろう。
妹と同じように彼女も、そこまで考えたところで隼人は頭を振る。


「何を考えているんだ、俺は…」


ツグミにとって夢の中にいたほうが幸せなのではないか、なんて
柄にもないことを考えてしまうのは
時折、ツグミが穏やかな寝顔を見せるからで。
ここではないどこか遠い場所で幸せに包まれて
春風のような優しい声で笑っているような気がしてしまうのだ。

しかしそれも隼人が彼女に触れ、声をかけた瞬間に消えてしまう。
まるで迷子のような今にも泣き出しそうな表情を浮かべるツグミに
目覚めないほうが良いのではないかと思うのと同じく
自分がここに来ないほうが良いのかもしれないと考えもした。

だけど、やはり自分にはツグミが必要で。
その存在を感じたくて、この部屋を訪れてしまう。
見たくないなら顔を背けても良いから、一瞬でもその瞳に自分を映してほしいと
拒絶の言葉でも何でもいいから、その声を聴きたいと願ってしまう。


「なぁ、ツグミ。今どこにいる?そこでお前は幸せなのか?」


返答はない。だけど、傷跡残る手に触れ、強く握れば僅かな反応があって。
それが夢の中にいたいと願っているような表情に見えたとしても
隼人は繋いだ手を放そうとは思わなかった。
戻ってこい、と伝えるために強く強く力を込める。


「確かにここは辛いこと悲しいことばっかだし…
それに今は雨が降っててじめじめして…嫌になるけどさ」


そこまで言って、言葉を切った隼人は
全ての恨みをぶつけるように窓の外を流れてゆく雨に視線を投げると
止まない雨なんてないのだ、そう言い聞かせた。

悲しみだって同じ。雨宿りするみたいに、傷が治るを待てばいい。
例え拒絶されたとしても側にいるから。どんな彼女でも受け止めるから。
だから、雨があがった頃に戻っておいで。
隼人が願いを込めて投げかけたなら、彼女は柔らに笑った気がした。





End



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