パラダイムシフトの明暗
隼人×ツグミ、葦切×小瑠璃
隼人√GOODEND後



日々の業務と突然転がり込んでくる事件に追われ、
決まった休みも取れず働き詰めの毎日を送るのは帝都新報で働く者も同じ。
ツグミと隼人の休みを合わせるだけでもやっとであるというのに
よく4人の予定が揃ったものだとデヱト日和ともいえる青空を見上げて溜息一つ。


「まぁ、そんなに悄気るな。隼人」
「先輩は余裕そうですね」
「女性陣が楽しそうで何よりじゃないか」
「俺はぜっんぜん楽しめないですけど」


自由恋愛が持て囃されるようになり、様々な恋愛の形が生まれる世の中で
学生を中心に2組の恋人が共にデヱトすることが流行しているらしい。
ダブルデエトと呼ばれるそれをツグミから持ち掛けてきたときは驚いたけれど
流行に敏感で押しの強い小瑠璃の提案であると知れば合点がいく。

女性の友情を考えて了承したものの、こうしてデヱト当日を迎えてみると
やはり彼女と2人きりで出かけたかったと思ってしまうのは仕方がなくて。


「それでね、蝶々夫人の公演がとても素晴らしくて」
「そんなに良かったの?」
「えぇ。あなたも一度、行ってみるべきだわ」


男2人を残して先を行く2人の会話は途切れることなく。
楽しげに揺れる背中を追いかけることしかできない現状に
まるで付き人にでもなったような気分だと嘆く隼人に対し
葦切は余裕があるように見える。

だから余計に自分一人が浮いているように感じて
どうにかツグミを振り向かせたいと思う隼人だったが
友人との話に夢中の彼女は隼人の気持ちに気付くことはない。

葦切の言う通り、彼女が楽しんでいるならそれで良いと思う自分だっていた。
けれども、その笑顔を自分だけに向けて欲しいという想いが
じわりじわりと侵食してくるようで、先程よりも大きな溜息が零れる。


「あいつのいう公演な〜…
確かに音楽は良かったが物語はすっきりしなくてな」
「え、先輩も見に行ったんですか?」
「まぁ…だがあれは男が見に行くもんじゃないだろう。何しろ夢も浪漫もない」


期待外れといわんばかりに肩を竦めて話す葦切は
きっと小瑠璃に誘われ渋々見に行ったのだろうと予想すれば案の定。
今までこちらにお構いなしで前を歩いていた小瑠璃が振り返り
「それはそれはすみませんでした」と芝居がかった謝罪を口にする。


「まさか開演10分でイビキをかき始めるほどお疲れだったとは露知らず。
お誘いした私が間違っておりました」
「っ、それは…音楽があまりに心地よくてだな。
いやぁ〜、折角誘ってくれたのにすまんかった」
「いえいえ。音楽だけでも楽しんでいただけて良かったです」


小瑠璃は言葉とは裏腹に引き攣った笑顔で葦切の目の前まで詰め寄る。
道の真ん中で、しかもダブルデヱトの最中に話すことでもないだろうと
小瑠璃を宥めようかとも思ったが
ふと取り残されたツグミを思い出して視線を向ければ久しぶりに視線が絡む。
ただそれだけなのに、どくんと鼓動が跳ねて今までの不満が吹き飛ぶようだった。


「あの、隼人…」
「ん?」
「隼人はオペラとか興味ない?」
「それって、一緒に見に行こうって意味?」


目が合った瞬間、ここまでの距離を一気に縮めて話し掛けてきたツグミに
不意を突かれた隼人はその戸惑いを見せまいと
自分のペースに持っていくため冗談めかしに言ってみた。

きっと彼女は照れて否定するだろうから
そこで改めて『俺も行きたいし一緒に行こう』と誘えば喜んでくれるはず。
そんなことを考える隼人に対し、ツグミは暫し悩む仕草をみせたかと思えば
恥ずかしそうに小さく頷いて肯定するから
またまた予想外の展開に困惑してしまう。


「いや、ですか?」


不安げに揺れる瞳で問うてくる彼女に
隼人は当然『行きます』『大歓迎です』と声高らかに答えようとしたのだが
今になってこれまでの不満であったり不安が仄暗く溢れ出してきて。
気が付けば「それって2人きりで?」なんてことを問うていた。
口にした後で余計なことを聞いただろうかと思ってみたら案の定、
ツグミはぽかんと呆気にとられた様子を見せる。
けれど、そのことを気に病む間も与えぬうちに
彼女は柔らに微笑みを咲かせて「できれば2人きりで」と答えてくれるから
隼人の胸を燻っていた影が一気に晴れ渡る。


「ねぇ。ツグミちゃん、尾崎さん…2人に一つ提案なのですが」


話が纏まったところでタイミングよく入ってきた声は吉報を知らせるそれで。
揃って小瑠璃に視線を向けたなら、彼女ははにかんだのち
ここからは別行動をしようと言い出した。

隼人とツグミのやりとりを見て気を遣ったのかは分からないが
ここにいる4人がそれを望んでいるのは明らかで。
幾つかの目配せののち、ダブルデエトの感想もそこそこに
「それじゃ、また」そんな言葉を告げて別れる。

手を繋ぐでも腕を組むでもなく、
相変わらずの小競り合いを交わしながら歩いてゆく葦切と小瑠璃を
最後まで見送ることなくこちらも歩き出す。

ちらりと横を見れば確かに視線が絡む。隣に触れる温もりが心地よく、
互いに笑んで見上げた空は相変わらずの青空が広がって
この先のデヱトを期待させた。






End



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