怪盗気取りの日曜日
イッキ→主
ひとつ隣のアムネシア スペードの世界?


久しぶりの買い物だと足取軽い彼女の歩調に合わせながら
視線を上げたなら、日差しの眩しさに世界が白飛びして見えた。
いつも影の中で俯いている彼女はきっと天気なんて関係ないのだろうが
会ってすぐの常套句として「晴れて良かったね」なんて言葉を口にしてみる。

すると彼女はほんの少し影から顔を覗かせて
「そうですね」と、興味薄ではありながらも返事をしてくるから
思った通りの反応に苦笑が浮かんでしまう。
同時に、彼女の透き通るような翠色の瞳を漸く見ることができたと嬉しくなって。
無遠慮に見つめていたなら、彼女はハッと我に返ったらしい。
逃げるように俯いてしまった。

当然ながら彼女の顏は影に隠れて見えなくなる。
彼女は今何を考え、何を見つめているのだろう。
イッキは薔薇の模様が織り込まれた白い日傘に隔たった彼女の想いを探る。

目が合った相手を虜にするという話を聞いた時、
不思議とすんなり受け入れることができたし、
なぜか他人事のような気がしなかった。
そして、できるだけ騒ぎを起こさないようにいつも俯き加減で
外出の時は傘で顔を隠している彼女の心情も理解している。

だけど、いつだっていつまでだって彼女の顔を見たいし
できるなら彼女を独占したいと思う自分もいた。


「イッキさん?どうかされましたか?」


流れる喧噪の中、ふと聞こえてきた声で我に返れば
彼女は立ち止まって傘から顔を上げていた。
心配してくれているのだろう。珍しく真っ直ぐ見つめてくれる彼女に
どくんと心臓が跳ねて、それを合図に鼓動が高鳴る。

これはきっと彼女の目に宿った力のせいではないはずだ。
イッキに目の力が効かないというのは勿論だが
温かくて優しいこの気持ちが偽りだなんて思いたくない。


「え、あぁ…ごめん。少し、ぼーっとしてた」
「無理、していませんか?具合が悪いなら、今日は…」
「心配してくれるのは嬉しいけど、本当に大丈夫だから」
「そうですか?あ。それなら、少し休みましょうか」
「そうだね。ここは人が多いし、2人でゆっくり話ができるところに行こうか」
「え…あ、はい。そろそろ、騒ぎになりそうですしね…」


傘を傾けて話をしていたせいで、周囲の視線が彼女に集まり始めていた。
そのことに気付いた彼女は「すみません」と言って
慌てたように傘の中に潜ってしまう。

何よりもイッキに迷惑を掛けることを気にしているらしい彼女に対し
イッキは周りの目なんて全く気にしていなかった。
騒ぎが起ころうものなら、彼女は自分のものだからと連れ出す覚悟もある。
だけど、それをすると彼女は益々困ってしまうだろうから
ここはいつも通り、早々に退散するとしよう。


「それじゃ、少し急ぎ足で行こうか。
逸れないように僕から目を離さないで付いてきてね」


とりあえず、チェックしておいた個室のあるカフェを目指そうと
彼女に声を掛けたなら、傘の中から「はい」と短い返事が聞こえた。
すっかり彼女の顔は見えなくなってしまったけれど
楽しげにくるりと回った日傘に対し、イッキは笑みを返した。







End




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