絵本の空白にふれて
イッキ主
SchoolWorld イッキ√ クリスマス捏造


白い息に紛れる柔らかな雪はサングラスを濡らす。
女の子たちを撒いて、人の来ない場所をと思いやって来たのは屋上。
ここにはクリスマスパーティーの賑やかな声も届かない。

ご馳走を食べて、プレゼント交換をして、ダンスをする。
パーティーに参加していたらやっていたであろうことを
つらつらと並べながら、ふと思った。
自分はただクリスマスを彼女と過ごしたかったのだと。

何をやるにしても彼女が隣にいなければ意味がない。
彼女が笑っていなければ、自分も楽しくない。
だからこそ、彼女に危害を与える可能性をなくさなければ。
例えその可能性にイッキ自身が含まれていたとしても。


「イッキ先輩!」


ふと大好きな声に名前を呼ばれたような気がした。
有り得ないと思いながらも少しの期待を持って振り返れば
確かに彼女らしい人影が見える。

それでもまだ寒さがみせた幻覚かもしれないと疑う自分もいたが
地面に薄ら積もった雪を溶かし、冷たい空気を切り裂いて
近付いてくる人影に、漸く夢と現実が重なった。


「え。本当に、君…どうして?」
「先輩が気になったので、追いかけてきました」
「さっきも言ったけど、僕はパーティーには…」
「はい。でも、私はクリスマスをイッキ先輩と過ごしたかったんです。
最初からパーティーはどうでも良かったから…
だから、ここにいても良いですか?」


頬に触れた雪が解けて輪郭を伝う。
それを涙だと思われても否定できないくらいの気持ちだった。
彼女が自分と同じことを思ってくれたのが嬉しい。
一緒にいたいからと追い掛けてきてくれた彼女が愛おしい。
溢れる想いに先程の決意が揺らぎそうになる。


「あの…先輩?」
「…僕といると、いつか君を傷付ける。
今日みたいに周りに引っ掻き回されるだけじゃない。
僕自身が君の想いを台無しにすることになるかもしれない」


彼女に目の力が及んで、怯えられ、離れていってしまうことが何よりも怖い。
だから、互いの傷が深くならないうちに離れるべきだと言い聞かせる。

それでも彼女はイッキと一緒にいたいと言う。
今日だけではない、これからもずっと。
そして、この想いは絶対に揺らがないとして開きかけた距離を縮めてくるから
意思を持ったその瞳をイッキは信じたいと思ってしまった。


「君は僕を追いかけてきてくれた。突き放しても目を逸らさないでいてくれる。
そんな君と、ちゃんと向き合いたいと思うよ」
「イッキ先輩?」
「少しだけ時間を頂戴?これが最後の思い出だなんて思いたくないけど
クリスマスの今日くらいは自分の運命を忘れて、君と過ごしたいんだ」


きっと、彼女には半分も分からない話だっただろう。
けれど彼女は何も聞かずに隣に並んでくれるから
本当に自分の運命を忘れそうになった。

心成しか、寒さも和らいで。雪がちらつく夜空は綺麗なのだと思い知る。
これも彼女が隣にいるからだとして
先程から熱心にグラウンドを見つめている彼女へ視線を向けたなら、
その姿がやけに寒そうに見えて、咄嗟に彼女への気遣いを思い出す。


「ごめん、寒いよね。中に入ろうか」
「私、もう少しここにいたいです…ダメ、ですか?」
「え…ここにいたいの?」
「はい。ここなら少しだけですけど、クリスマス気分を味わえますし」


彼女が指差したほうに目をやるとグランドに飾られたクリスマスツリーが見えた。
1つ1つの光が合わさって大きな輝きを放つそれは温かだ。

「遠くから見ても綺麗ですね」と彼女は感動を溢すけれど
その翠眼に映った光のほうが綺麗だとイッキは思う。
そして、その光をもっとよく見たくて
ツリーを見つめ続ける彼女に隠れてサングラスを外したなら世界は彩られる。

彼女と向き合うことができたら世界はもっと輝くのだろうか。
イッキは、そう遠くない未来に少しの緊張と多くの期待を感じていた。






End



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