星のまにまに
イッキ→←主
今度の土日はヒマ?END


ひんやりと冷たい空気に溶け込んで見上げる空は遠い。
それなのに、星に手が届きそうだと思えるのは
輝きが鮮明で、今にも降ってくるようだったからだ。

虫の声一つしない寂寂たる草原にブルーシートを敷いて寝転がる。
すぐ隣にある彼女の手を握りたいと思うけれど
この静寂を破れば、必然的に未だ聞けていない
彼女がメールをくれた理由を聞くことになるだろう。

自身はこの一か月、彼女を忘れるどころか
彼女への気持ちを再確認して、一層強く想うようになったのだ。
時間と距離を置くことで彼女にも変化があったと期待しているが
悪いほうに傾いていたり、ただの気紛れだったとき
改めて、別れの覚悟を決める自信がなかった。


「この時間は流れ星がよく見えるそうですよ」
「へぇ…もし流れたら、君は何をお願いするの?」
「そうですね…ぱっとは思い浮かばないんですけど
ただ、私はイッキさんと流れ星が見たいです」


星が流れた瞬間に叶う願いだと笑みを交えて話す彼女は何も変わっていない。
そのことを嬉しいと思う反面、物足りないと感じて
「僕はね。沢山願い事があるよ」と本心が零れる。
自分のことをどこか他人事のように見ていた過去を思えば
彼女と出会って、随分、欲張りになったなとその人間らしさに少し心が弾む。

途端、表情が緩んだと自覚しているし、彼女も気付いたらしい。
顔をこちらに傾けた彼女は「イッキさんの笑顔が見られて良かったです」
なんて遠慮がちに声を掛けてくるから、ぎくりとしてしまう。


「…あぁ、ごめん。退屈そうに見えてた?そんなことなかったんだけど…」
「いえ、そうではなく…この1ヶ月、イッキさんが落ち込んでいたと聞いたので」
「え…何それ。誰から聞いたの?」
「リカさん、です」


彼女と再会してから。否、彼女に連絡をもらってから
ずっと落ち着かなかった心がちくりと針を刺したような痛みののちに
穴が開いた風船のようにじわりじわりと萎んで。
勝手に期待していただけだというのに、裏切られたような気になる。
だけど、やっぱり彼女のことを見限れなくて
気にしていないとか、想定内だとか、自分を誤魔化すための言葉を探す。


「あぁ…だから、メールをくれたの?ごめんね。気を遣わせちゃって」
「ち、違うんです。確かに心配しました。
だけど、それはイッキさんとお別れしてからずっとで…」
「え?」
「ずっと気掛かりで、いつもイッキさんのことばかり考えていました。
それでも、イッキさんに連絡する勇気が持てなくて…
そんな私の背中を押してくれたのがリカさんからの電話だったんです」


ブルーシートを波立たせるようにして身体を起こした彼女は
否定の言葉を口にした勢いを徐々に失いながらも必死に伝えてくれた。
期待しても良いのだろうかと窺うようにのそのそ身体を起こせば
息を詰まらせ、緊張の色を浮かべる彼女がよく見える。


「ねぇ。そんなふうに必死になられたら、期待しちゃうよ」
「…」
「いいの?」


否定がないのを良いことに気持ちを伝えて、触れて、キスしてしまいそうになる。
だけど、彼女の瞳が怯えたように揺れているから
どうしても自信が持てなくて、臆病にも彼女の言葉を待つ。


「以前のようにFCの方たちと積極的に交流しなくなったと聞いて
私と別れてから誰ともお付き合いしていないことを知って…
イッキさんのことを信じたいと思ったなんて、今更ですし…狡いですよね」
「今更なんかじゃないし、狡くもないよ。
だって、信じたいと思った一番の理由があるでしょ?」
「…言わなきゃ、ダメですか?」
「うん。ちゃんと聞かせて」
「っ、あの。イッキさんが、好きだから…信じたいです。
イッキさんは、私の言葉を信じてくれますか?受け止めてくれますか?」
「勿論。だって、僕も君が好きだから」


安堵の色に変わる瞳へ手を伸ばせば
彼女はくすぐったそうに頬を緩め、瞼を下ろす。
静寂に浮かび上がる2人のシルエットはゆっくり時間を掛けて重なり、
1ヵ月の距離をあっという間に埋めた。

痛いくらいの鼓動と、溶けてしまいそうなほどの熱、
壊し壊されてしまうのではないかという少しの恐怖と緊張に
お互い、示し合わせたように離れて目を開ければ
視界の隅を流れていく星々に気付く。


彼女は赤い顔をそのままに空を見上げ
「願い、叶いました」なんて嬉しそうに笑うから
「うん。僕も」と返して彼女の視線を辿れば
願いが叶い満たされた心は、降り注ぐ流星を純粋に綺麗だと感じた。






End



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