甘いきみ依存症
イッキ主
覚悟、決めたよEND


来週は久しぶりの連休だから遠出しようと
2人分の予定が詰まったデスクカレンダーを手に、切り出した。
出掛けるといっても目の力があるため場所は制限されるが
イッキとしては彼女と時間や気持ちを共有できるだけで十分。
そしてそれは彼女も同じであると知っているけれど
たまには別の形で喜ばせてあげたいと思うのも本心だ。

誰も自分たちのことを知らない地に行って夜景や星空を見ようか。
暗がりのアートアクアリウムやナイトアクアリウムなら2人で楽しめるだろうか。
なんて、あれこれ考えながら反応を待っていると
悩むような仕草を見せていた彼女は唐突に手元の雑誌を捲り、
賑やかなカラーページをこちらに向けて言う。「ここに行きませんか?」と。

いつになく積極的な彼女に驚いたのは勿論。その雑誌で紹介されているのが
アトラクションに1時間待ちは当たり前な人気テーマパークだったため
「え、ここ…?」と戸惑いの声を溢してしまう。
それをあまり乗り気ではないと受け取ったのか
彼女は「やっぱり、無理ですか…?」そう言って雑誌を引っ込めようとするから
慌てて否定するも疑問と不安が混ざり合った心情を隠しきれず。
彼女はしゅんと俯いてしまう。


「我儘を言って、すみません」
「我儘だなんて思ってないから。
寧ろ君から希望を言ってくれることは凄く嬉しいし、全力で叶えたいと思う。
だけど、人混みに行くとどうしても君に迷惑を掛けてしまうよ…?」


今まで嫌な思いをしてきたであろう彼女もそれを分かっているはずで
何より、我儘だと認識していながら口にしたこと自体、彼女らしくない。
イッキは特別な理由があるのではないかと頭を働かせる。

その一方で本当は明るく賑やかな場所に出掛けたいと思っていたらしい彼女に
ずっと我慢させていたという現実から目を背けようとした。
しかし、どんなに考えたところで他に理由は見つからず
結果、罪悪感と自己嫌悪に沈んでしまう。
けれど溺れてしまう前にイッキの心情に気付いた彼女が
「イッキさんはいつもそうです…」という言葉とともに
冷たい水底まで追い掛けてきてくれる。


「私はイッキさんを苦しめたくて誘ったわけじゃないんです。
私、お付き合いした男性はイッキさんだけだから
こういうテーマパークでデートしたことなくて、憧れていたんです」
「…うん」
「でも、それはイッキさんもですよね?迷惑が掛かるから遠慮しているだけで
本当は私と同じ気持ちなんじゃないかなって…
そうだと嬉しいし初めてのことを2人で挑戦できたら良いなって、思ったんです」


何もかも見透かしたような翠眼に敵わないなと思う。
全て彼女の言う通り。誰もが当たり前だとするものを
何一つ持っていない自分はいつも憧れを抱いていた。

そんな中で彼女は恋をして、愛し愛される喜びを教えてくれた。
普通のことが特別である自分にとって
普通の恋愛ができるというのは奇跡のようなことだ。
それだけでも十分だというのに、彼女は普通という名の特別を
色々な形にして見せてくれるから、欲張りになってしまう。


「人混みで騒ぎになるかもしれませんけど私がイッキさんを守ります。
誰かが入ってくる隙なんてないくらい、ずっと傍にいます。
だから、もしイッキさんが行きたいって思ったなら…その、行きませんか?」
「行きたいよ。すごく行ってみたい」
「本当ですか…?」
「うん。2人で行こう。ね?」
「はい」


嬉しそうに頷いてみせる彼女だったが
ふと何を思ったか、雑誌で口元を隠してしまう。
雑誌からチラチラと覗く頬が赤く染まっていることから
照れているのかと納得はするが「それ、ズルいよ」とつい本音が零れる。


「ず、ズルいって…?」
「僕だって凄く嬉しくて、にやけそうなのを必死に我慢してるんだよ」


彼女を真似て、緩んだ口元を雑誌に寄せた。
自然と近くなる距離と絡み合う視線は心を熱くするには十分だが
やっぱり物足りず。キスしたいなと思う。
そのことを「ほんと、僕って欲張りだよね」として口にすれば
彼女は大きく瞬きを繰り返したのち、2人の間を隔てていた雑誌を抜き取って
「良いですよ。欲張っても」そんな言葉を当たり前に、そして特別にくれた。







End



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