違う世界の私へ
イッキ主
レイター後


平行世界の狭間に立って、幾つもの世界を眺める夢を見た。
自分の生きている世界に似ているものは沢山あるのに
結末は幸せなものばかりではなく。
別れや傷心、破滅に今でも苦しんでいる者もいれば、立ち直った者もいる。

ちょっとした選択肢の違いで大きく変わる運命をどうして見せたのかと問えば、
どこか懐かしい雰囲気を纏った少年は
「君には彼女たちの分まで幸せになってもらいたかったんだ」と答えた。


次の瞬間、魂が自分の身体に戻るかのような感覚を受けた。
2人分の温もりがあるベッドの上、隣で眠る彼の姿、布団の中で強く握られた手。
ここは間違いなく自分の世界だ。

愛する人と結ばれ、幸せを築いていくことができる世界。
しかし、選択肢一つで悲劇に変わってしまうくらい不安定で
そこに生きる1人の少女の価値は桜並木の中に在る花弁も同然。
一片散ったところで大きな影響はない。


「っ、ん…なぁに?どうしたの?」


ベッドの上で膝を抱えて蹲ればシーツが寄り集まり、
その波に引かれるようにして目を覚ましたらしいイッキが譫言を漏らす。
のちに未だ眠たげな目を擦りながら、のそのそと身体を起こしたかと思えば
「ねぇ。大丈夫?」そう言って強張った頬を解かすように触れてくる。

恐怖の中に幸せが溶け込んで、混ざり合う。
言葉で上手く表現することもできないそれをどうすれば良いのだろう。
気持ちは溢れて渦巻いているのに心は満たされず、苦しい。


「っ、き…すき」


渇いた喉を鳴らして呟けば、イッキは緩い表情を一変。
驚いて見開かれた青い瞳に映るのは余裕のない自分で。
思わず彼の肌蹴た胸元に顔を埋めて隠し、
「好き、です」とただ伝えたくて口を開く。

するとイッキは理由も聞かず
「うん。僕も好きだよ」そう言って頭を撫でてくれる。
何度も繰り返されるそれに合わせ、じんわり心が温かくなっていくのを感じた。



「怖い夢を見たんです」
「うん」
「イッキさんと一緒にいられなくなる可能性を沢山見ました」
「うん…」


拙いながらも言葉にすれば心地良い相槌が耳元を擽り
現実を示すかのように強く抱きしめてくれた。
少しだけ苦しくなって身動ぐも力は増すばかりで
堪らず胸元を軽く叩いて訴えれば彼はその瞳に笑顔を映し、悪戯に微笑む。
そこで自分が笑顔を取り戻していたことに気付き、少しだけ照れ臭くなった。


「あのね。これまで色々あったけど…今、こうして一緒にいられるのは
奇跡でも何でもなくて、僕たちの力で掴み取ったからなんだよ。
だったら、この先も2人で乗り越えていくことができると思わない?」
「…」
「それにね。僕は君が傍にいてくれるだけで幸せになれる。
この想いは絶対に変わらないし、君も同じ気持ちだってことも知ってる。
それだけで、これからも幸せでいられる証明になるでしょ?」


恐怖を感じる暇もないくらい、心に流れ込んでくるイッキの言葉。
深く納得して頷けばどちらのものとも判断しがたい安堵が漂う。
そんな中、2人揃ってシーツに倒れ込めば幸せの波が押し寄せてくる。
全身を包むそれが2人で掴み取ったものだと思うとより一層、特別に思えた。

そして、幾つかある世界の中でこの声が届いている自分がいたなら、
もしもしと声を掛けて、愛する人が傍にいるだけで幸せになれるのだと教えたい。
彼の腕の中で微睡ながら、そんなことを願った。





End



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