蓮華咲いたら瑠璃の鳥
イッキ→主(←ルカ)
SchoolWorld ルカ√途中捏造


昼休みを迎えたばかりの賑やかな校内で見知った人影を見つけた。
ここ数日、沈む一方だった気分が急上昇するのを感じながら
すぐに声を掛けようとしたけれど
ふと、そわそわと落ち着かない様子が気になって
伸ばそうとした手を止めてしまった。

物陰から顔を覗かせた彼女が見つめる先には
派手な衣装で校内の背景に溶け込めずにいるルカの姿。
彼に見つからないように隠れているのかと納得すると同時に
心を重くしていた不安が少しだけ剥がれ落ちる。
最近、よく一緒にいる2人だが
彼女のほうは迷惑に思っていたのだと知ることができたからだ。



「ねぇ。大丈夫?」


緩んだ頬をそのままに何も知らないふうを装って声を掛ければ
彼女は大袈裟に肩を震わせ、驚きの声をあげようとするものだから
慌ててその小さな口を手で覆った。
余計に戸惑ったのか苦しげに身動ぎする彼女だったが
ふとこちらの姿を確認すると、安心したように肩の力が抜ける。

そののち、最近まともに顔を合わせていなかったからだろうか
碧色の瞳がまじまじと見つめてきたかと思えば
同じく艶やかな唇で「お久しぶり、ですね」なんて、
たどたどしく言葉が紡がれる。


「そうだね。君は最近ずっとルカさんといるみたいだから」
「あ、それは…」
「うん。知ってる。付き纏われてるんでしょ?
僕も似たような感じだから…君の気持ちは分かるよ」


ルカのペースに飲み込まれることを嫌い、
できるだけ関わらないようにしているため
いつもルカと一緒にいる彼女にも近づけなくなってしまうのは必然。
今まではそれを仕方ないとしてきたが
卒業まで時間がなくなってきたこともあり、
このまま彼女と距離が広がることを焦っている自分に気付く。

ここ数日、ずっと悩んでいたそれらをつらつらと話せば
彼女は困ったように笑い「でも、ルカさんは悪い人じゃないんですよ」
なんてことを言うから、弾んでいた心が水に沈む音がした。

本当はここで『彼のことをどう思っているの?』と
聞いてしまいたかったけれど、大きく息を吸った途端、不安に襲われて
「じゃあ、どうして隠れていたの?」そんな意地悪な質問で
誤魔化してしまう。


「あ…それは」
「言えないような事情?」
「い、いえ。そうじゃなくて…
実はルカさんから絵のモデルになってほしいって頼まれているんです」
「はっ…君が?え、と…引き受けるの?」


酷く動揺して震える声で問い掛ければ
彼女は慌てたようにふるふると首を横に振った。
それを見る限り、やりたくないというより
自分に務まるわけがないといった思いのほうが強いのかもしれない。

「どう断ろうか考えているので…顔を合わせ辛くて」と話す彼女に
「そうなんだ」なんて感情の籠っていない言葉を返してしまうほど
面白くないと思ってしまった。


「イッキ先輩?」
「っ、あぁ。ごめん…何?」
「いえ…あの。折角、話しかけてくださったのに
申し訳ないんですけど…私はこれで失礼します」
「え…?」
「これから職員室に用事があって…
ルカさんに待ち伏せされているようなので、遠回りして行くことにします」


苦笑いを浮かべながらルカのほうへ視線をやる彼女に胸が痛む。
事情はどうあれ、彼女はルカのことしか頭にない。
目の前にいるのに遠くにいるように思えて、
ぺこりと頭を下げて更に遠くへ離れていこうとする彼女の腕を
思わず掴んでしまった。

彼女から戸惑いの声があがって我に返れば
翠色の瞳に情けない自分の顔が映っているのが分かる。
格好悪い序でに、このまま自分だけを見ていてほしいと
言ってしまいたかった。

けれど、彼女は呆気なく視線を他方へ向けて
「ルカさん!」と慌てたような声をあげるから、
気持ちと一緒に彼女を掴んでいた手を落としてしまう。


「君、待っていたよ!おや、麗しの君も一緒だったのか」


どうやらルカに気付かれてしまったらしい。
前回のように適当に誤魔化して逃げてしまいたかったけれど
この場に彼女と2人残していく気にはなれず。
それならば『彼女は僕のものだから近付かないでくれる』なんて
資格がないことを承知で言ってしまおうかと、本気で思った。


「イッキ先輩。走りましょう」
「は?っ、あ。ちょっと!」


こちらが距離を測っていることなんて知りもしない彼女は
力なく下ろしていた手を、今度は離れぬようにと固く絡めてきた。
小さな手に籠る力が強くて、薄れて空気に溶けつつあった自身が
くっきりと形を取り戻すような感覚を受ける。

彼女と手を繋いで逃げるのは2度目だ。
あの時は走っているせいだと誤魔化していたけれど
鼓動が速くなるのも、身体が熱を持つのも
そんな単純な理由ではないことくらい、とっくに気付いていた。


「はぁ、っ。まだ、追い掛けてきてる…っ」


ちらりと後ろへ視線を投げた彼女は荒息交じりに呟いたのち
「なんか、すごくドキドキしますね」と悪戯な笑みをくれた。
自分と同じ理由がそこになくても、つられて笑ってしまう。

こんな些細なことで満たされるのだと
知ってしまったからにはもう立ち止まれない。
スピードを上げて小さな背中を追い越し、繋いだ手を引いた。
すると彼女は突然軽くなった足元に驚いたようだが
特に何も言わず。覚束ない足取りのまま素直に付いてきてくれる。
それが堪らなく嬉しかった。


「ねぇ。僕、君に伝えたいことがあるんだ」


強く握られた2人の手と高鳴る鼓動、
向かい風も味方に付けて、ずっと隠していた想いを叫んだ。








End



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