その答えに触れて | ナノ


▼ 8.漲れ!太陽の如く!

「でな!ここは」
「シッシッシッ!」

朝から朗らかな笑顔でグッドモーニング。あたしの心臓は昨日から酷く消耗してダウン寸前。リボーンが手配してくれたという制服を初めて着た。リボンの付け方がわからなかったけど山本がさらりと至近距離でパチリと金具を付けてくれたものだから本当に、今は心臓が危機的状況なんだ。これが、噂に聞く悩殺…げふん。登校中も近所のことを親切心100%で教えてくれている。あの商店街のことも、ナミモリーヌのことも。ケーキ屋さんなんて、多分あまり行ったことはないだろうに、あたしが女の子だから教えてくれたんだろう。

「お!ここよく使わせてもらってる公共グラウンドな!」
「シッ!シッシッ!」

漫画に描かれていない、この世界のリアルな姿。公共グラウンドなんてあるの知らなかった。並盛がこんなにも絵に描いた様に平和な町だということ。ギャップが激しくて、少し戸惑う。

「シッ!シッ!シッ!」

………さっきから後ろ、なんか聞こえてくる。シッシッシッって。一定のリズムを刻んで意識して呼吸しているような感じ。ついでに言えばなにをやってるのか、振り上げた腕が風を切る音も聞こえる。山本の話に真剣に耳を傾けていたが、もうだめだ。後ろが気になりすぎる!!!

「シッ!シッ!やはり朝登校しながらのロードワークは、シッ!!極限に気持ちが良いな!!」
「あれ!笹川先輩!ちわっす!」
「むっ!山本か!極限におはようだー!!!!」

朝から体育会系二人の少し熱い挨拶。色素の薄いスポーツマンらしい短髪に、真っ白な歯をむき出して笑う笑顔は太陽の光をめいっぱい受けて、むしろ彼こそが太陽の化身なんじゃないかと思うくらい光輝いていた。彼の名は、笹川了平。

「あ、あの、おはようございます」
「うむ!…見ない顔だな、…まさか、我がボクシング部のマネージャーを希望する者か!!?」
「あ、?」

どうしたらそうなる!!!がしっと両手を掴まれれば払うことは可能だが良心的に痛い。こんな瞳をキラキラさせている人は特に。

「いや、ボクシングは関係なくて…」
「そうか、マネージャーではなく部員希望なのだな!わかった!!今日の放課後!!入部試験を行う!万全な状態で来い!」

だから、なんでそうなるの!!!!!勝手に納得して勝手に約束を取り付けた笹川了平はニカッと晴れ渡る笑顔をあたし達に向けると再びロードワークに戻っていく。

「あっはは!!おもしれーのな!」
「お、面白くないよ、あたし無理だよボクシングなんて」
「笹川先輩行っちまったし、放課後断りに行けば大丈夫じゃね?俺も行くからさ!」

山本の心強いフォローのお陰であたしはやっと並盛中学校に足を踏み入れた。



「おはよう、朝からお騒がせごめん」

片手を上げたのはもえで、一緒に職員室の廊下にいる。転校生扱いのあたし達は担任の朝の会議が終わるまで待機、ということらしい。コンクリート造りの校舎は白くて中学校とはこんなに大きいんだな、と思う。朝のリーゼントだったり、もえが顔を真っ赤にしてぶっ放つ勢いで学ランのスタイル抜群の青年を追い回していたり。今思えばあれが雲雀恭弥だったとわかる。

「うん、すごい形相だったけどなんかあったの?」
「…いや、言いたくないわ」

げそっとした顔でもえはスカートの裾を摘まんだ。あたしはスカートを履く機会が全くなかったから少し居心地悪い。スースーする。

「転校生ー、行くぞー」

担任であろうお年寄りの先生がひょこひょことした足取りで廊下を進んで行く。あたし達は顔を見合わせてついて行った。よかった、2人一緒だ…。2人でそっと安堵のため息をついた。先生が先に教室と呼ばれる部屋に入った。

「我がクラスに編入になった生徒を紹介するぞ、仲良くするように。」

手招きをされて中に入る。…っうわ、同じ年頃の子が沢山…!!全員カタギだ…!愕然としているともえにつんつんと肩をつつかれる。

「では自己紹介して貰おうか」
「あ、ハイ。郷士もえです。どうぞよろしく」
「おい!あの子朝ダメツナと登校してた子じゃね?」
「うそ!あんなダメツナにこんな可愛い子が!?」

…シンプル!!シンプルイズベスト!涼しい顔で淡々と自己紹介を終わらせたもえは本当にすごい。緊張って言葉知ってるのだろうか…。

「次は君ね」
「は、はい!紅林えりかと言います!ふ、不慣れな点も多いですが、どうぞよろしくお願いします!」
「あーっ!朝、山本君と歩いてた子!」
「おい山本!早々に抜け駆けかよ!」

山本、の名前に反応して吃驚した。緩い笑顔でひらひらとこっちに手を振っていたのは山本だった。その近くで獄寺が今にも悪態つきそうな顔で頬杖をついていて、沢田君も周りにどやされながら若干冷や汗を流している。…みんな、一緒?それが、えらく安堵するものだった。情けない顔をしていたのだろう。隣のもえに頭を叩かれた。

「よっ!お疲れさん!」
「よかった、2人とも俺達と同じクラスだね!これからよろしくね!」
「ケッ、こんな所にまで」
「うん、改めてよろしく綱吉君、山本、獄寺」
「よろしく!」

休み時間は机に集まってくれて、3人は学校という所を紹介してくれた。途中で笹川京子ちゃんと黒川花ちゃんが声をかけてくれて、…まさか、本物をこんな間近で拝めるとは夢にも思ってなくて、涎が出るかと思った。…ん?笹川…?笹川…笹川、了平ぃぃい!

「もえ!あたし用事思い出したッ」
「は、はあ!?」
「絶対、ボクシングはやらない!!!」

困惑したもえを置いて、更には付き添ってくれると言ってくれた山本のことすら忘れて、ボクシング部を探した。猪突猛進なのはあたしの悪い癖。放課後の学校というものは、少し静かなんだな…。朝とは大違いだ。でもそれぞれ違う服を団体ごとに着て集まってなにかしてる。あ、スポーツかな。

「笹川、了平!!」
「来たな!期待の新人!!!」
「あたしボクシングはやらないです!!」
「なに!?朝はあんなにやる気だったではないか!!?」
「勘違いだー!!!!」

準備万端と言った顔でリングに上がっていた。きっちり防具とグローブまでつけて。

「あたしは、どっちかと言えば…剣道!!殴り合いじゃないの!」
「剣道だと!?剣道部はもう十分部員がいる!!ボクシング部に入れ!」
「なぜだ!!!」
「なんでもだー!!」

…この人と話していると自分がちゃんと日本語を話せているのかすら怪しくなってくる。会話、成立してます?これ。

「ならば!ワンダウン制だ!1度でも膝を付いたら負けだ!!」
「あんたもうボクシングやりたいだけでしょ!!」

でも、致し方ない。背負っている刀を降ろしてリングに上がる。その時、バンと部室のドアが開いた。もえ達だ。もえはこっちを見た瞬間目をぎょっと見開いた。

「ぎゃああああああ!えりかなにしてんの!」
「ワンダウン制の、真剣勝負!」
「お兄さん!!!?」
「おお!沢田!丁度良い!俺が勝ったら2人まとめてボクシング部に入るのだ!」
「なんか俺巻き込まれた!!?」
「笹川先輩!ちょっとキツくないっすか?さすがに女子に…」
「やっちまえ芝生!」
「獄寺!」

山本の獄寺を咎める声。確かに、あたしは女の子だけれど普通の女の子ではないから。

「ワンダウン制の勝負!受けて立つ!」
「えええー!ちょっと!えりかちゃん!危ないよ!お兄さんはボクシング部の主将で…っ!」
「ならこっちは紅鬼刀を継ぐ当主だよ!」

ボクシングのグローブだけ借りてリングに上がる。殴り合いは得意じゃないけど、こんな一般人に負けてはいられない。

「それでは…試合開始だ!!!」
「おもしれぇことやってんな」

部室の窓から逆さまになって覗くリボーンはにたりと笑みを浮かべた。

「笹川了平の動きは決して遅くはねーのに。…紅林えりかか…ふむ」

笹川のパンチを避けまくっているえりかの顔は億している様子はなく、むしろ好戦的な瞳で攻撃の筋を読んでいるようだった。ダン。勝負が決まった。笹川了平の膝が、リングに着いたのだ。

「わーッ!!もう終わり!終わりー!!」
「ちょっ!もえ!引っ張らないで!」
「いくらなんでもボクシングはだめだー!!!」
「もえ!!落ち着いて!」
「はっはっは!おもしれー!すげー強いのな!先輩に勝っちまった!」
「役に立たねーな芝生メット!」
「きょ、極限に悔しいぞ!!お前!名前はなんて言うのだ!」

がばりと立ち上がった笹川了平は真摯な目刺しで見つめてくる。

「今日転校してきた、紅林えりかです」
「紅林だな!この勝負、極限に面白かったぞ!また受けてくれるか?!」

清々しい笑顔で差し出された手に、少し戸惑う。だけど、あまりにも清々し過ぎるから。

「…はい!」

その手を握り返すんだ。


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