その答えに触れて | ナノ


▼ 36.白の視界に鮮やかな青

「……ハァ、ハァ」

腹立つなーこの頭痛。なにかに縛り付けられているかのよう。刀を握れば握る度相手の手先を読もうとする度ぶれている気さえする。いつもみたいに力がでない。腕が重い。腕の切り傷に雪が触れている。どんな毒を含ませているのかは知らないけど、なかなかの即効性。気が朦朧とするのもこのせいかな。

「……もえ、変な顔」

観覧席のもえは変な顔。そんな顔しなくても大丈夫。諦めてないよ。でも自分がここまで追い込まれるなんて思ってなかった。柿本君や城島君にもたくさん教えて貰ったのに。あたしは今無様にも片膝をついてしまってる。……なにが当主だ。なにが山本を守るだ。笑わせるっての。本当に。あたしは弱かった誰よりも弱い。気持ちも技術も全てだ。嫌になる。いつもどうやって戦ってた?いつも、自分より強い敵を前にしたらどやって……!

あれ?……あたしのいつもって、なに?

「もしかして毒が!」
「そろそろだな。ツナ。俺はお前にえりかが正式な守護者になるかどうか聞いてこいって言ったろ」
「だから、聞いたじゃないか!そしたらえりかちゃんは戦ってくれるって……」
「"ボスのえりか"には了承を得たのか?」

リボーンと綱吉君の会話を聞いてざわりと肌が粟立った。おぞましいものを思い出したからだ。

「少なくとも、ツナ。お前の言葉は"ヤツ"には届かなかったみてーだぞ」

そうだ。なんで忘れてた。戦闘学校の時からその異彩を放つ存在の中心。絶対的勝利を掲げてきたえりかの中に潜んでるモノ。最近何も無かったから、忘れていた。

「意味わかんないよ!」
「綱吉君…なんでザンザスやスクアーロがえりかを引き抜きたいのか…それは、えりかのもう一つの人格にある」
「じ、人格?」
「えりかはもう一人の自分を飼ってる。それは普段ウチらが接している方じゃない、もっともっと別のもの」

ベキッ!!!!観覧席の窓ガラスに相手のファルディネが背中から吹っ飛んできた。だらりと四股がプールサイドにズルズルと垂れる。…ついにきた。この空気の重さ。圧倒される威圧のすべては一人から。昔、ウチにも向けられたそれだ。

「…いつも?いつもお前が嫌がる戦いは全て私が引き受けてあげてきたじゃないか」

もう一人の人格……"紅鬼"。禍々しい程の殺気を振り撒く姿に、綱吉君や山本達はごくりと息を飲んだ。綱吉君と一緒にきた獄寺も言葉を失った。刀を使わず、一蹴りしただけでここまでの威力を要する。

「これが最凶戦闘一族の紅林家を背負う当主の姿だよ…ウチも過去に一度対峙した」
「……ッ、足が竦みやがる……」
「あれがボスとしての本質であるえりかか。俺はあいつと話してこいって言ったんだぞ」
「で、出来るわけないだろ!?第一、し、知らなかったし!」

向こう側の観覧席はザンザスが薄ら笑ってその背中を見つめていた。まるでやっと巣から出てきたと言わんばかりに笑みさえ浮かんでいる。

「早く代われというのに無駄な抵抗ばかり。それに雅な粉雪に細工とは愚かにも程がある。」

溜息を零したえりかは降り積もる雪を一払いした。

「……あ、紅鬼……」
「指を一本落としたあの時以来。くっついたのか?」
「!?指……?」
「……昔、一悶着あったんだよ。その時に出てきたのがコイツ…紅鬼。依り代がダメージを受けると出てくるんだ」
「!?え、!?」

綱吉君達にちゃんと説明できなかったウチのミスだ。だってえりかは紅鬼の存在を知らない。自覚がないんだから。

「今はくっついてるけど、ウチはあれと対峙して負けた。指一本切られることで幕引きしたんだよ。……あれ以来現れた試しがなかったものだから。」

山本、あんたはこのえりかに何を思う?少なくともウチは尊敬と畏怖。えりかは大事な相棒であり友達だ。でも紅鬼は違う。こいつに人情はない。道徳もない。

「くだらない事をしている様子」
「御当主殿。ちと話を聞いてくれねーか」
「ディーノさん!?いつから!?」
「俺はイタリアンマフィア キャッバローネのボス、ディーノだ。あんたの半身はこいつ、ツナの守護者として戦うことを承諾し、今ここに立ってる!」
「私には関係ないこと。」
「あんたの半身が困ることになるんだ!相手のリングを奪うだけでいい!」
「笑止千万。指図するな」

やばい、こいつが出てきたことで争奪戦の意味も揺らぎそう。指にリングをひっかけて弄ぶ紅鬼はディーノさんの言葉に顔を顰めた。

「リング……っ!」
「なに。くどい。」

起き上がったファルディネがリング目掛けて手を伸ばす。紅鬼刀の柄の部分が鳩尾にめり込んだ。

「対の者が為せない事を私が代わることで均衡を保ってきた。名は紅鬼。」

薄氷が張ったプールの上にファルディネの体は叩きつけられる。ピシリと欠けた亀裂。

「俗物ごときが敵うわけがないと悟れ」

人の心さえない。えりかの当主たる一面を担うのが紅鬼だからだ。残酷非道な決断も辞さない。夥しい数の屍の上に気高く座す。それが出来なきゃ当主にはなれないからだ。

「これいらない。勝手に捨て…………」

首の鎖に手を掛けた手が止まる。正確には鎖と一緒にずるりと出てきた物を見てだ。それは、青色の御守りだった。御守りなんて付ける子じゃないけど、獄寺にも渡していた。

「御守り……?」
「あれ俺と交換したやつだ」
「山本と?」
「並盛神社で必勝祈願してきたんだ。えりかが白で俺が青。雨戦の時に交換したんだ」

山本が取り出したのは白色の御守りだ。色が違うだけで同じタイプのもの。

「……くだらない。」

紅鬼は呆れを通り越したような顔を片手で覆った。

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