▼ 34.鏡の中の君
「雨のリング争奪戦は山本武の勝利です。それでは次回の対戦カードを発表します。」
「こ……こんな終わり方……」
「明晩の対戦は……」
雪の守護者の対決です。
「あ、あのさ。えりかちゃん。少しいいかな」
明日が雪の対決。ツナはリボーンに言われた通りえりかの意思を確認しなくてはいけなかった。山本の付き添いで廃病院に行くというえりかに、先に声をかける。
「あの……明日の対決なんだけど」
「それがどうしたの?」
「その、リボーンが確認しろって。ほらえりかちゃんは俺と同じ立場の人だから、戦いに参加してくれるのかを……」
聞きたくて。と語尾は縮こまってしまった。リボーンが珍しくあんなこと言うから余計緊張したのだ。もしかして自分が思う以上にデリケートで重い事柄なのではないか、なんて。
「沢田君。誰になに言われたのかわかんないけど、あたしは自分がボスの立場でも沢田君の守護者になるよ」
「え、?」
「本当は迷ってたんだよね。もえと同じで。あいつすぐ沢田君パパにリング突き返してたけど。…あたし達には責任がある。この世界を歪めた責任が。」
居心地悪そうに肩を竦めた。異世界の話はリボーンと家光のみに明かしている。ツナは世界を歪めるとうフレーズに小首を傾げた。
「それにあたしこの世界で守りたい人がいるから。負けたくないよ。大丈夫。でもごめん。組織的にボンゴレ組織の傘下にはなれない。あたしの一族がここにいなくても。」
「そ、そんな傘下とか全然考えていないよ!ただ……友達として一緒に戦ってほしいんだ」
「ともだち?」
「うん。もえも仁義のため、とか難しい事を言ってたけど……俺は守護者とかそういうんじゃなくて、ただ友達の為に戦いたいんだ。」
「……そっか。ともだち……友達か」
えりかの口角がきゅっと上がる。嬉しそうだ。そう思った。もえとえりかは感情が豊かそうでそうではない。だからこそ、ツナは2人の表情を無意識に観察してしまう。
「なら同盟だね。」
「ど、同盟?」
「あたしが古参の一族紅林家。現首領紅林えりか。今日からあたし達は同盟という名前の友達!」
「え?うん?え?」
「改めて、よろしくね。沢田君。あたし明日頑張るから!」
右手で握手とぶんぶん振り回されえりかは手を降りながら廃病院に入っていった。なんだ、なんだか全然あっさり……
「どーだ。ツナ。えりかはファミリーに入ったのか?」
「あ、リボーン!傘下にはなれないけど同盟って名前の友達って言われて守護者になるって、頑張るって言ってたよ」
「……それはどっちがだ?」
「?どっちって?」
リボーンはボルサリーノの鍔を下げながらツナの肩で考え込んだ。その顔は晴れ晴れしないものだった。
夢見が悪くて目を開けた。ロマーリオさんに治療を受けた山本は家に帰ってきていつもの通り隣の布団で爆睡中だ。むにょむにょと口を動かして、なにか美味しいものを食べる夢でも見てるのかな?怪我、大丈夫そうで良かった。壁掛け時計を見上げれば夜中の3時を回っている。あと一時間二時間すれば剛さんが仕込みに起きてくるころである。部屋を出て洗面所に向った。顔でも洗ってすっきりしてこよう。
− 我が古参の名を穢すつもりか?
鏡の前に立った瞬間。頭の中に響くようにそんな声が聞こえた。幻聴……?気の所為?鏡には吃驚した顔の自分が映るだけだ。
「…あれ……?」
えりかの対戦は今日だ。ぶっちゃけめっちゃ不安。不安しかない。不安の塊。
「ふうん。」
「ふうん……だけかい!」
「何を言ってもらいたいんだい?君の勝負でもあるまいし。」
「ウチの勝負には口出す気だったわけ!?」
「結果が結果なら今ここに君はいないよ」
怖えええええ!あぶねえええ!
「わざわざ相手に情をかけるのは、愚の骨頂だけどね」
「…雲雀もそう思った?」
「前にも言った。」
弱者が土に還るのは当然のこと。ウチが助けようとしたのは、その思想に反したらしい。
「でも、スカルピオーネは命落としてもザンザスの命令を遂行しようとしてた。なのにヴァリアーはそれすら切り捨てて…」
「ワオ。それを同情って言うんだよ」
「ど、同情っていうか!」
「死んでもなにかを為そうとする意思の前に、同情なんて必要ないのさ」
雲雀もボスの器だ。不良を従えて風紀委員という纏まりを統べる人。合理的な判断を無情にも下せる。やっぱり違うんだ。まざまざと見せつけられる。綱吉君はやはりボスとしては異質…。でも、ウチは間違ってると思えない。
「君は、それを知った上でバトルに勝ったんだから」
勝者が敗者にかける言葉なんて、一つだってない。それこそ、同情……。
「楽しみだね。君と同類なのか、そうでないのか」
「え?」
雲雀はそれ以上なにも言わずに学ランを颯爽と翻して屋上に向かっていった。ウチと同類なのか…?
「……ウチは特別畑違いなんだよ」
頭痛いなぁ……困ったなぁ今日あたしの勝負なのに…。山本は鼻歌唄いながら本人曰く勝負の準備をしているらしい。手ぶらでいいのに……。城島君、髑髏さんや柿本君には無言で親指を突き立てられた。シュールだった。いや、嬉しかったけど。城島君にはいつもと変わりなく馬鹿にされて送り出された。
「そろそろ時間だぜ。」
「あ、うん」
「大丈夫だって!」
そうだ。あたしは負けちゃだめなんだ。ボスとして、そしてもえに続かなきゃいけないんだ。頑張ろう。落ち着けば出来るはず。あたしも裏の人間。同じ匂いの人間を相手に出来るはず。大丈夫。いける。山本を守るんだ。なにがあっても、どんな結果になろうと。少しでも危険が及ぶなら。あたしが。
「ありがとう。……行こう」
そう、決めたんだから。
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