その答えに触れて | ナノ


▼ 33.海面の紅

「でけぇ力を持った奴…?」
「実例がうちの幹部にいやがるからなぁ。あの腐れ王子」
「獄寺とやった…あいつと同じだってのか?」
「比じゃねぇのは確かだがな」

あれは…こいつらカス共が手懐けられるような代物じゃねぇ。なんたってうちのクソボスが目を付けたんだからな。他のリング戦で見てりゃあ、笑えるくらい冷酷非道な顔してやがる。俺達ヴァリアーと大差ねぇ。それが山本武。お前の言う"普通の女"か?ベルは血を流した己の姿に殺した双子の兄を見る。戦闘能力も俊敏性も跳ね上がる。だがそれとは比じゃねぇ程のなにかを、小娘は内側に纏っている。幾多の死闘と修羅をくぐり抜けなければ得られぬ感が告げている。奥底に渦を巻くような…獰猛な気配が。

「まぁ、どの道お前は俺に卸されるんだァ…無用な話しだったがな」



「えりかさん。ウチのパーカーの下に顔突っ込むのやめて貰えませんかね」
「だって雨戦怖いんだもん!!!」
「もんじゃねえ。服伸びる」

雨戦がスタートしてからこやつ、ずっとこれだ。ギャーギャー言い合ってたら録にスクリーンの映像も見れず、お前ら落ち着けと周りに宥められてばかりで映像、音声、事の顛末を全然見ることが出来てない。こいつのせいだ。

「ばっか!山本は勝つんでしょ?なら心配いらないじゃん!」
「少し違ってきたから怖いんだよ!!」
「もう完璧に変わってるから大丈夫!!!」

少しどころか180度ターンだわ!もういいよ!慣れてきたよ!こうなる運命なんだよ!定めだよ!神の思し召しなんだよ!

「…ヴァリアーのスカウトの話し」
「…いや、ここでそうなるかって今もすごく、あの、びくびくしてる。」

てか、何故そんなに執拗なのか。だってヴァリアーのボス。ザンザスとNo.2のスクアーロだ。えりかの何を見てそんな事を……。

「ねぇもえ」
「なんでしょう」
「山本はやっぱり山本だね!」
「は?なにそれ。そんなの当たり前じゃん」
「野球バッティングの構えなんて斬新だよね!」
「あんたも教えてもらえば?」
「野球したことないもーん」
「ええい。もんがうざいわ」

でもえりかが山本に会えて本当に良かった。あたしのいない場所で偶然にも2人が出会ったのはある意味必然かもしんないし。なにより、えりかが嬉しそうだし。…まぁ、時々すごくモヤモヤするけども。焦れったくて。雨の守護者の使命は戦いを清算し流れた血を洗い流す鎮魂の雨。スクアーロは体現してみせたけど、なにも考えていない山本こそそれを体現してると思う。こうなることは決まってた。スクアーロが敗北すること。

《勝ったぜ》
「山本…!」
「やりましたね!」

「ぶはっ!ざまぁねえ!!負けやがった!カスが!はははははっ!用済みだ」

ザンザスの手が持ち上がる。この展開は変わるか?もう変わるところは変わってるし、変わらないところは変わらないんだろう。

「今アクアリオンに入るのは危険です。規定水深に達しため、獰猛な海洋生物が放たれました。」
《ちょ…待ってよ。スクアーロはどーすんだ?》
「スクアーロ氏は敗者となりましたので生命の保証は致しません」
《やっぱな。んなこったろーと思ったぜ。よっ》
「!山本」
「てめー馬鹿かっ!」
《普通助けね?》
「んなこと言ってんじゃねーよ!」
「その体でスクアーロを担いでいくのはムリです!」

スクアーロの血の匂いに反応した海洋生物…鮫が2人の眼下に迫った。ヒレを見る限りかなりの大きさだ。あれにやられたら一溜りも……。

《おろせ。剣士としての俺の誇りを、汚すな》
《でも……よ、》
《う"おおい!うぜぇぞ!》

ガキ。剣のスジは悪くねぇ…あとはその甘さを捨てることだぁ

《スクアーロ!!!》

……鮫に食いつかれた海面に滲み出る紅に、全員が悟った。誰もが静寂を破る事はできなかった。

「ぶはーっははは!最後がエサとは、あの…ドカスが!!!……過去をひとつ清算できた」

ザンザスを除いては。

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